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気になるアレコレまとめました!医師の為の歯科コラム
歯科コラム

古代は本物の虫が原因だと思われていた!『虫歯の物語』から見る歯医者の歴史

現代人は、その多くが「歯はどうして虫歯になるのか」を知っていることと思われます。そして「どのようなことをすれば虫歯になるのか」「どうすれば虫歯にならないのか」なども一定の年齢になれば多くの人が理解することができます。そのため「虫歯」はそれほど恐れるものではないということが今の常識となっています。

しかし今から300年ほど前までは、虫歯は「虫」が原因であったり、歯を抜くことが虫歯の治療であったことが常識であったことはご存知でしょうか。そのため今では信じられない治療が行なわれていたり、とんでもない誤った知識が広く知れ渡っていたのが当時の常識でした。

では遠い昔では「虫歯」はどのように思われ、具体的にどのような治療をしてきたのかを歴史をたどりながら触れてみたいと思います。またその過程で虫歯の豆知識についてもご紹介いたします。

虫歯について正しく理解しよう

虫歯について正しく理解しよう

これから「虫歯の歴史」について語る前に、まずは虫歯になるとなぜ歯が痛くなるのかを、虫歯のメカニズムとともにご説明します。

「虫歯」とは、虫歯の原因菌が出す酸によって歯が溶かされ、それにより次第に歯の厚みが失われていき、歯のなかにある神経が外部に露出していく現象です。歯のなかにある神経は歯が虫歯の菌に冒され、菌が神経のなかへと侵入しようとしていることを「痛み」として体に異常を訴えます。

また、菌が歯の神経のなかに侵入する前である場合でも、歯が菌によって溶かされ始めていることを熱い物や冷たい物、甘い物を食べた際にしみる現象で訴えることもあります。

このように「虫歯による痛み」とは「歯のなかにある神経の防御反応」であり、虫歯という異常を体に伝えるための歯自身の手段と言えるのです。しかしそれは裏を返すと、歯は神経が失われると痛みを感じなくなるということです。その点から言うと、虫歯の治療で行われる「歯の神経の治療」は、虫歯の菌が歯の神経のなかに入り込んでしまったために神経が感染した場合に行われる治療行為です。よってこの治療が行われると、虫歯の治療とともにそれまで感じていた痛みも完全に取り除かれることになります。

しかし、その後また同じ歯が虫歯になったとしてもその歯に神経はないため痛みは感じず、虫歯になっているという異常には自身で気づくことはできなくなってしまいます。そのため、虫歯になっていることを自身で気づくことができるためにも歯の神経は失われないようにすることが最良と言えるのです。


なぜ歯が痛くなるのか

なぜ歯が痛くなるのか

では改めて、昔の人たちは虫歯をどのように捉えていたのかを説明いたしましょう。それは紀元前の頃までさかのぼります。当時まだ「虫歯」というものを知らなかった人たちは、そもそもなぜ「歯が痛むのか」ということすら理解できずにいました。そのため歯が痛くなってしまった場合は、歯の痛みを取り除くための儀式、今でいう「お祓い」のようなものが行われていました。

また、その後は痛みが消える効果がある食べ物を食したりすることで痛みに対処していました。これは紀元前の古代バビロン王朝で実際に行われていたことであると言われています。

■虫歯の原因は「虫」?
紀元前5000年頃、同じく古代バビロンの住人であったシュメール人は、「虫歯」の原因は歯のなかにいる「虫」が原因であることを主張しました。以来この考えは、のちの1700年頃まで続いたと言われています。

この「虫歯」が虫のしわざであったという説は、古代アッカドの神話にも記されており、「虫歯の物語」として残されています。当時はまだ歯を削るという治療の概念はなく、「歯のなかに虫がいる」という説を否定する事実を解明する手段がなかったのです。

しかし、シュメール人が歯の「虫」について主張するよりさらに昔の紀元前7000年頃のころには、既に歯を削る治療は始まっていたとされている説もあります。それが行われはじめたのはガンジス川流域でのこと。当時は今のような歯を削る機械などは当然なかったため、木製のドリルを作り歯を削っていました。そのドリルは、先端を尖らせた棒に一本の縄をくくり、その縄を弓状にしならせた棒にしばりつけ、左右に動かすことで尖った棒が「火おこし」のように動く仕組みでした。それにより歯を削れば、そのなかからは紐状の細い物体である歯の神経が出てくることになります。

しかし、当時はそれを歯の神経と思う人はいなかったためか、のちに何千年にも渡って虫歯の原因は「虫」であるという説は深く根付くことになってしまったようです。


日本で行われていた歯の治療

紀元前のころには既に一部において歯を削るという治療行為が行われていたにも関わらず、日本でその治療行為が行われるようになったのはごく最近のことでした。はじめて日本でも虫歯を削る治療が行われはじめたのは、明治初期の頃です。ちょうどその頃は、1872年にニューヨークにおいて足踏みエンジンが販売されるようになり、歯を削る電動ドリルや歯の清掃の器具などに使用されるようになっていました。そのため今のように機械を使った歯科治療が盛んになりはじめたのは、明治時代後半から大正時代にかけての頃でした。

ちなみに、それまで日本で行われていた歯の治療は「抜歯」のみでした。また歯を失えばやがて食事を摂ることは難しくなってしまうため、歯の治療を行う医師には「抜歯を行う医師」と「入れ歯を作る医師」がいたとされています。また、歯科に関する医療制度がしっかりと確立されるまでの間は医師になるための資格がない者も歯の治療をすることが許されていました。

今となっては考えられないことですが、昔は近代的で高度な治療が受けられるのは裕福な人たちだけでした。そのため一般の人たちの間では誤った虫歯の豆知識が広がり続けたままになり、それを利用して医師の資格を持たない者が抜歯の治療を行い、金儲けをしていたと言われています。

歯を磨いていたのはいつから?

歯を磨いていたのはいつから?

虫歯の治療が正しく行われはじめたのは明治時代からというかなりあとのことであったにも関わらず、歯を磨くという行為は既に平安時代より行われていたとされています。

日本で歯をきれいにするという行為が行われ始めたきっかけは、平安時代の永観2年(984年)に丹波康頼(たんばのやすより)という人物が記した医学書にありました。それには「朝と晩に歯を磨くことにより虫歯を予防できる」とあったそうです。今となっては常識のようなものであるその言葉は、この頃から既に日本にあったのです。

現在の歯ブラシが日本に導入されるまでの間は、楊枝のような道具で歯の汚れを落としていたとされ、その習慣は明治時代近くまで続きました。
ちなみに今の歯ブラシによく似た歯みがきの道具が日本にやってきたのも明治時代以降であり、機械で歯を削る治療行為がはじまったのとほぼ同時とされています。

虫歯と時代

こうして歴史を振り返ってみると、とても遠い昔から虫歯の予防や治療は既に行われはじめていました。

しかし虫歯の原因は虫であるという誤った知識が長く根付いていたり、近代的な治療が一般に普及するまで長い時を要していたりと、疑問に感じる部分も少なくありません。それはおそらく当時の身分の問題であったり、今のように正しい豆知識を世に広めるといった概念がなかったことにあるのかもしれません。

現在は多くの人が平等に正しい治療を受けることができ、誤った知識は訂正することが当然のことになっています。そういった今の時代に、感謝するべきなのかもしれません。

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