海外でおなじみの水道水にフッ素添加する施策
日本において、虫歯の発生は年々減少傾向を示しています。しかし、アメリカを始めとする他の先進国と比較すると依然として高い状況には変わりありません。
歯磨きの回数では、決して劣るものではありませんが、こうした結果の違いはどこから生まれるのでしょうか。
虫歯の予防にはフッ素
虫歯の原因は、ストレプトコッカスミュータンスに代表される、いわゆる虫歯菌にあります。虫歯菌は、磨き残したものを利用して栄養にします。その際、乳酸を作り出しています。虫歯で歯に穴があいてくるのは、この乳酸が歯を溶かすからです。
ところで虫歯の予防には、フッ素を使うことがとても効果的であることが以前から知られています。歯にフッ素がしみこむと、歯の表面を構成するハイドロキシアパタイトと呼ばれる物質が、フルオロアパタイトというものに変化します。
このフルオロアパタイトは、ハイドロキシアパタイトと比べて、虫歯菌が作り出す乳酸に強い性質を持っていまこのために、歯にフッ素を使うことで歯の表面の性状を虫歯に強いものに変えることができるのです。それだけでなく、虫歯の際に再石灰化を促進する作用もあります。
■日本でのフッ素の使い方
歯にフッ素をしみこませることを「フッ化物応用」といいます。現在、日本におけるフッ化物の応用法としては、フッ化物製剤を歯に直接塗るフッ化物歯面塗布法・フッ化物製剤でうがいをするフッ化物洗口法・フッ化物配合の歯磨き粉を使って歯磨きをする方法の3種が主に行われております。なお、これらを総称してフッ化物の局所応用法とよびます。
このうち現在、日本でもっとも広く行われているのは、フッ化物の配合された歯磨き粉による歯磨きですが、歯磨き粉の配合されているフッ素の濃度は低めになっております。また、歯面塗布法は、歯磨き粉よりも濃度の高いフッ素を使うことができるのですが、歯科医院を受診しなければならないという煩雑さがあります。フッ化物洗口法であれば、自宅で簡単に高い濃度のフッ素を使ってできるというメリットがある反面、うがい薬という歯磨き粉以外のものを別途購入しなければならないという費用や手間がかかるデメリットがあります。
このようにフッ化物の局所応用法には、どれにも一長一短があります。そして、最大の特徴は、はえている歯にしか効果がないという点です。
水道水にフッ素を
世界保健機関WHOも、虫歯予防のために、フッ素を積極的に使うよう提言しています。WHOでは、そのための効率的な方法として、水道水にフッ素を混ぜることを推奨しています。これを水道水フッ化物添加法、またはフルオリデーションと言います。なお、前述の局所応用法に対し、こちらはフッ化物の全身応用法ともいわれます。
水道水にフッ素を混ぜることができれば、日常的にお口の中がフッ素に浸されることになります。そして、身体の中にも吸収されます。フッ化物の局所応用法であれば、その製品を購入しないと、もしくは歯科医院を受診しないと、その恩恵には与れませんし、せっかく購入しても使うことを忘れればなおさらです。しかし、その点、水道水フッ化物添加法であれば、歯磨きの時のうがいのとき、水を飲むとき、食事のとき、常にフッ素の恩恵が水道水を使う全ての国民に行き渡るようになるのです。しかも局所応用が、はえている歯にしか効果がないことに対し、水道水のフッ化物添加法であれば、フッ素を身体に取り込むことが出来ます。そのため、はえてくる前の段階、すなわち歯胚の段階においても作用するという、局所応用法にはない大きなメリットもあります。
このため、日本口腔衛生学会でも水道水フッ化物添加法は、フッ化物応用法の基礎であるとし、生涯を通じて各人の歯を強くする作用があることから日本でも導入するよう提言しています。
■日本における水道水フッ化物添加法について
平成29年1月現在、水道水フッ化物添加法を行っている自治体はないようです。しかし、一時的には過去何度か行われてはいます。例えば、昭和27年から13年間にわたって、京都府京都市山科地区で、水道水にフッ化物が添加されていました。また、昭和42年には、三重県朝日町でも行われました。日本に返還される前の沖縄本島でも、米軍の施政下で実施されていました。このように、日本では全く行なわれたことがないわけではありません。過去何回かは日本でも行われていたのです。
ところが、昭和46年兵庫県宝塚市で斑状歯の発生が報告されました。調べてみると、水道水に水質基準を上回るフッ素が含まれたことがわかりました。
この時は、意図的に水道水にフッ化物を添加したことによる発せ下のではなく、水源地の水に基準を上回るフッ素が含まれていた結果なのですが、それ以降、日本における水道水にフッ化物を添加する動きは下火になりました。なお、斑状歯の虫歯の発生率は、通常の歯と比べて低いことが知られています。
■日本における学会からの提言
世界保健機関WHOからの推奨を受けて、日本歯科医師会や日本歯科医学会、日本口腔衛生学会は水道水のフッ化物添加法の導入を提言しています。また、8020財団という8020運動の推進を行なっている団体も、同様に虫歯の予防目的に水道水フッ化物添加法を行なうことを勧めています。
また、学術団体ではないのですが、厚生労働省も推奨しています。歯科だけでなく行政も水道水のフッ化物添加法について肯定的にとらえており、導入に前向きです。
まとめ
虫歯の予防には、食後に丁寧にしっかりと歯を磨くことも大切ですが、歯の性質を虫歯菌の産生する乳酸に強化できるフッ素を使うことも、歯みがきに劣らず大切です。外食などで、食後常に歯を磨くことが出来ない以上、フッ素を用いて歯を強くしておいた方が、虫歯予防の点で、優れていることは否定出来ません。しかも、フッ素には再石灰化を促進する作用もあります。
日本において、近年虫歯の本数は減少傾向にありますが、他の先進諸国と比べるといまだ高い状況にあります。今後、更に虫歯を予防するためにも、水道水にフッ化物添加法の導入を検討してもいいのではないかと考えます。