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気になるアレコレまとめました!医師の為の歯科コラム
歯科コラム

歯周病でがんリスクが高まる!?その理由とは

現在、アメリカ合衆国において、歯周病患者のがん発症リスクに関係する研究が行われています。
一見すると歯周病とがんには関係性がなさそうにもみえますが、そんなところも研究しているところがアメリカのすごいところです。
今回は、アメリカで行われた研究のいくつかについて、ご紹介いたします。
気になる研究結果ですが、いずれの研究も、歯周病にかかることで、がんのリスクが高くなることを示しているようです。

タフツ大学での研究結果について

タフツ大学での研究結果について

アメリカ合衆国タフツ大学で歯周病とがんの発症リスク増加についての研究が行われました。この研究は、アメリカ合衆国メリーランド州、ミネソタ州、ミシシッピ州、ノースカロライナ州という非常に広い範囲の7466人を対象として行なわれていた歯科の試験データを利用して行なわれました。
歯周病とがんのリスクについての考察が得られましたが、本来はこの研究は、地域における動脈硬化のリスク研究(Atherosclerosis Risk in Communities Study)として行なわれており、がんのリスク研究が目的の研究ではありませんでした。
対象となるフォローアップ期間は、1990年後半から2012年ですので、実に20年以上にも及ぶ長期間の研究であったことが窺えます。この20年に及ぶフォローアップ期間中、1648症例に新たに悪性腫瘍が発症したことが確認されました。


タフツ大学での研究の結果

歯周病については、罹患なし、軽症例、重症例の3つに分類して評価されました。
その結果、歯周病罹患なしと軽症歯周病のグループと、重症歯周病のグループを比較したところ前者に対して、後者のがん発症リスクが24%も増加したことが認められました。
また、無歯顎は歯周病の重症例の結果とみなして考えたそうですが、無歯顎者のがんの発症リスクはさらに高く、28%のリスク増加でした。
リスクの高かったがんは、肺がんが第一位で、次に高かったのが結腸がん、直腸がんでした。
肺がんに限って評価すると、重症歯周病グループは、歯周病罹患なしと軽症歯周病のグループと比べて発症リスクが2倍以上になるという多大な増加傾向を示しました。大腸がんでは、無歯顎者において発症リスクが80%増加したそうです。
がん全体の発症リスクが24%増であったことを考えると、重症歯周病患者の肺がんや大腸がんの発症リスクの高さがわかります。


ニューヨーク州立大学バッファロー校での研究について

ニューヨーク州立大学バッファロー校での研究について

アメリカ合衆国ニューヨーク州立大学バッファロー校では、閉経後の女性の歯周病患者のがん発症リスクに関する研究が行われました。この研究は、Women’s Health Initiative(女性の健康イニシアチブ)とよばれるもので、前向きのコホート研究として行なわれました。
研究の対象となったのは54~86歳の女性約66000人でした。女性に限ってこの人数ですから、規模の大きさが窺いしれますね。
研究の期間も長く、まず1999年から2003年にかけて問診にて歯周病かどうかをふるい分けし、歯周病患者を2013年まで経過観察しました。
対象者の追跡期間は平均して8.32年、そのうちの7149症例にがんの発症がみとめられました。


ニューヨーク州立大学バッファロー校での研究の結果

女性の健康イニシアチブ観察研究の結果は、アメリカがん学会の学会誌「Cancer Epidemiology, Biomarkers & Prevention」に発表されました。
これによりますと、歯周病に罹患した場合、食道がんを発症するリスクが、歯周病でない人と比べると、3.28倍も高くなっていたそうです。食道がん以外でも、肺がん、胆嚢がん、悪性黒色腫、乳がんで、発症リスクの上昇が認められたと記載してあります。
喫煙歴の有無と、歯周病患者のがん発症リスクの評価も行われており、タバコを吸い、かつ歯周病罹患者である場合は、肺がん、乳がん、胆嚢がんの発症リスクが高くなっていました。
一方、タバコは吸わないけれど歯周病である場合は、悪性黒色腫のリスクが上がったそうです。
発表したWactawski Wende博士は、歯周病ががんを発症させるメカニズムについては、今後の研究となり、現時点ではまだ完全には明らかになっていないとしていますが、仮説として、歯周病の原因菌などの口腔内細菌が、口腔内から血流にのって、体内の各所に運搬され、他の組織や臓器に到達することで、がんが発症しているのではないかと考えているようです。
そして、Wende博士は、口腔内の衛生状態を清潔に保ち、歯周病を予防し、罹患者は適切な治療を受けることが、がんの予防効果をもたらしてくれるのかどうかをさらに検証する必要性があると指摘しています。


まとめ

今回紹介したアメリカでの研究結果から、歯周病患者は、そうでない人と比べてがんを発症するリスクが高まることが示されました。
現在の日本では、歯周病によるがん発症リスクに関することは社会的に周知されていないのが実情です。歯やお口の健康を守るだけの目的ではなく、がんにならないように予防する意味でも、歯医者に通って歯周病の治療を受けようという気持ちになるよう社会の健康意識を変えるためにも、歯科医師は今後、歯周病の危険性を啓発していく必要があるといえるでしょう。
歯周病を治療することが、がんの発症リスクを軽減につながるなら、歯科医師冥利につきますね。


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