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歯科コラム

閉経後の歯周病でがんになる?女性にとっての歯周病の脅威

アメリカのニューヨーク州立大学バッファロー校で行われた、平均8年余りにおよぶ女性の健康観察に関する大規模な研究によって、閉経後に歯周病を起こすとがんになるリスクが高まる可能性があることが示唆されました。
今回は、閉経後の女性にとって歯周病が発がんのリスクになるとしたこの研究と、その結果や考察について紹介いたします。

歯医者なら知っておきたい歯周病の基礎

歯医者なら知っておきたい歯周病の基礎

■歯周病の基礎
歯周病は、歯周組織に生じる炎症性疾患ですが、これを分類すると歯肉炎と歯周炎の2つになります。
歯肉炎は、炎症が歯肉にのみ生じた病態のことで、歯周炎はそれ以外の歯周組織に炎症が拡大した病態のことです。言い換えれば、歯肉炎は歯周病の初期症状ともいえます。
歯周病の症状は、歯肉炎の場合は歯肉の腫れや出血、痛みなどで、歯が動揺することはありません。
歯肉炎から歯周炎に進行しますと、歯槽骨が炎症性の骨吸収を受けはじめます。これが歯周病が歯を喪失させる原因です。

■歯周病と全身の健康との関連性
歯周病は、歯を喪失させる原因となる病気なので、歯やお口の健康に直結する病気であることは、従来からよく理解されていました。
歯周病の影響はそれだけにとどまらず、近年の研究により歯周病が糖尿病や心臓疾患など全身疾患にも関連していることが明らかになっています。
そんな中、アメリカで閉経後の女性のがん発症に歯周病が関連している可能性を示唆する研究が発表されました。


閉経によって生じる影響

■閉経によるホルモン分泌への影響
閉経とは、正常な加齢的な変化や病気の治療等のために、女性だけが持っている卵巣の働きが低下して、月経が停止してしまう現象のことです。
この閉経の前後5年間を更年期といい、卵巣の機能低下による女性ホルモンの分泌量の減少によっていろいろな症状が現れます。
卵巣機能の低下によって減少する女性ホルモンは、エストロゲン(卵巣ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)です。たとえば、エストロゲンは閉経前の1割以下にまで減少すると言われていますので、閉経によるホルモンの分泌量の低下幅がとても大きいことが分かります。
このエストロゲンの減少は、免疫系や炎症反応、骨の代謝、脂質の代謝、糖分の代謝など身体のいろいろなところに影響を及ぼしてくることが明らかになっています。

■閉経に関連する症状
まず、自律神経への影響が現れます。いわゆる自律神経失調症です。のぼせや発汗、めまいなどが起こります。
続いて生じるのが、不眠症や不安、記憶力の低下、うつなどの精神的な症状です。その後、コレステロール値の上昇や、心臓疾患のリスクの上昇、骨量の減少による骨粗しょう症と続きます。
こうした症状の治療法としては、減少したホルモンを補充するホルモン補充療法や、抗不安薬等の精神安定薬、漢方薬などによる薬物治療が行われます。

■閉経と歯周病について
歯周病は、細菌、いわゆる歯周病菌が歯周組織に感染することによって生じる細菌性の感染症であり、歯周組織に炎症反応を引き起こし障害する炎症性疾患でもあります。
閉経後のエストロゲンの減少によって免疫力の低下や炎症性疾患の発現リスクが高まります。したがって感染症であり炎症性疾患である歯周病も、発症するリスクが高くなっていくのです。
歯周病は、閉経に関係なく糖尿病や心臓疾患に関連性を持っています。閉経により、より心臓疾患や糖尿病のリスクが上がりますので、それら疾患と関連性のある歯周病を治療することは、閉経後の全身の健康を保つという視点からもとても大切です。


ニューヨーク州立大学での研究について

ニューヨーク州立大学での研究について

■研究内容について
この研究は、アメリカのニューヨーク州立大学バッファロー校で健康衛生学部長をしているJean Wactawski-Wende氏が中心となって行われました。
正式には、この研究は「女性の健康イニシアティブ観察研究」と呼ばれ、対象としたのは、研究に参加した54~86歳の女性およそ6万6,000人で、その観察期間は平均8.32年間だったそうです。
研究結果は、アメリカがん学会の発行する学会誌「Cancer Epidemiology, Biomarkers & Prevention」に発表されました。

■研究結果について
気になる研究結果ですが、がんの発症が確認されたのが7,149件で、特に閉経後に歯周病になった場合、がんが発症するリスクがそうでないのと比べて、およそ14%上昇すると発表されました。
特に、食道がんについては、歯周病になった場合の発症リスクが3倍以上と、とても高値になるということです。
タバコとの関連性についても調査され、歯周病に加えてタバコを吸っている場合、肺がんや乳がん、胆のうがんのリスクが高まり、非喫煙者の歯周病患者の場合は、メラノーマのリスクが高くなったと報告しています。


「女性の健康イニシアティブ観察研究」への考察

今回の研究から、Wende氏は、お口の中を全体的にきれいな状態に保ち、歯周病を防いで、罹患した場合はその治療を行うことは、がんを予防する点から有用であると指摘しています。
一方、歯周病の専門家であるアメリカノースショア大学病院の歯科部長Ronald Burakoff氏は、調査方法から歯周病とがんとの関連の程度を疑問視しています。しかし、歯周病治療によって発がんを抑えることが出来るかもしれない可能性も指摘しており、歯肉炎等の歯周病の症状に早く気づいて治療を受けることを勧めています。


まとめ

閉経後に歯周病を起こすとがんが必ず生じるというわけではありません。今回ご紹介した研究についても、対象は女性に限られたものですし、歯周病とがんの直接的な因果関係を証明するものではありません。
しかし、閉経という女性に特有の身体の変化がホルモン分泌に影響することは明らかですし、それによって身体の状態にも変化が現れることも知られています。
閉経後の歯周病にがんのリスクがある可能性が少しでも示唆されるなら、歯周病治療という比較的、侵襲の低い治療が発がんのリスクを低減する可能性も考えられます。
閉経後の女性にとって脅威にもなりうる歯周病を治療し、歯やお口の健康のみならず、全身的な健康を守っていきたいですね。


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