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気になるアレコレまとめました!医師の為の歯科コラム
歯科コラム

がん患者への歯科サポート~薬物治療前の口腔ケアの重要性~

がん治療は、身体的にも精神的にも負担が大きな治療になります。しかし、がんを放置することは生命に関わるため、例え負担が大きくても、何らかの治療を受けておいた方がいいということは論をまちません。

がん治療で生じる副作用はいろいろありますが、お口にも症状は現れてきます。

お口に生じた副作用に歯医者は、どのようなサポートを行うことが出来るのでしょうか。

抗がん剤治療ってなに?

抗がん剤治療ってなに?

抗がん剤治療とは、がんの治療法の一つで、抗がん剤を使ってがん細胞の増殖を抑える治療法のことです。

■抗がん剤治療の特徴

がん治療は、外科的手術治療、薬物治療(抗がん剤治療)、放射線治療の3種類が組み合わされて行われます。

このうち、外科的手術治療と放射線治療には、がんを根治的に治す効果が期待できますが、抗がん剤治療の場合は、根治的効果は期待しにくいのが実情です。

現在、抗がん剤治療は、がん細胞が増えるのを抑える、または、がん細胞が成長するのを遅らせる、がんが転移したり再発したりするのを予防するなど、こういった目的で行われています。

■抗がん剤治療の方法

抗がん剤治療の方法には、抗がん剤のみを使って行う薬物治療と、外科的手術治療と放射線治療を組み合わせて行う集学的治療法があります。

また、薬物治療や集学的治療法を行うにあたって、抗がん剤を一種類だけ使う場合や、作用のことなる抗がん剤を組み合わせて治療する場合などがありますし、注射薬の抗がん剤もあれば、内服薬の抗がん剤もあります。

たくさんある選択肢から、がんの種類や進行度を考えて、最も効果的な方法を選んで治療が行われます。


口腔ケアってなに?

口腔ケアとは、全身の健康を守るために、歯やお口をきれいにすることです。

口腔ケアの方法は、セルフケアとプロフェッショナルケア(専門的口腔ケア)に分けられます。

セルフケアとは、患者さん自身が歯ブラシや歯間ブラシ、デンタルフロスなどを使って行う歯みがきのことです。歯がない場合に、入れ歯をきれいにしたり、うがいをしてお口に残った食べかすを取り除いたりすることも、セルフケアに含まれます。

プロフェッショナルケアは、歯科医師や歯科衛生士が専用の器械を使って歯石を取り除いたり、歯の表面をきれいに研磨したりすることを言います。これによって、歯の表面にプラークが付着しにくいようにして、お口の中をきれいな状態に保ちます。


抗がん剤治療の副作用

抗がん剤治療の副作用

多いのが、吐き気や嘔吐です。これは、抗がん剤によって脳神経が刺激されることが原因です。そのため、吐き気止めの薬を使って予防します。

また、下痢や便秘も副作用としてよくみられます。下痢は、腸の粘膜が抗がん剤によって刺激されることで起こり、便秘は腸の運動が低下してしまうことで起こります。抗がん剤治療開始後、およそ数日から10日ほどで起こることが多いです。下痢に対しては、下痢止めの薬が、便秘に対しては、下剤が処方されます。

そして、歯医者に最も関係してくる抗がん剤治療の副作用が、口内炎です。

口内炎は、抗がん剤がお口の粘膜を障害して起こるものと、抗がん剤の副作用である免疫力の低下によって感染が生じて起こるものの2種類があります。

後者に対しては、抗がん剤治療の前からお口を清潔に保つようにすることで、発生しにくくすることができます。

口内炎への対処法は、後述します。


抗がん剤治療の副作用に対しての歯医者にできること

抗がん剤治療の副作用に歯医者ができることは、抗がん剤治療の前と、治療中・回復期で異なります。

■抗がん剤治療の前

最初にレントゲン写真を撮影して、お口全体の状態をチェックします。抜歯しなければならないような状態の歯があれば、抗がん剤治療開始までの期間を考えて、優先的に抜歯します。

また、虫歯や歯根の先に病巣が認められた場合、抗がん剤治療中に急性化する可能性が高いと判断されれば、その治療をします。

こうした歯科治療、特に抜歯などの観血的処置は、概ね抗がん剤治療の2週間前には完了しておきたいところです。

もちろん口腔ケアも行われます。歯石やプラークを除去するプロフェッショナルケアを行い、お口全体をきれいな状態に整えます。セルフケアのために患者さんには、適切な歯磨きの方法を説明し、自分自身できれいな状態を維持できるようにします。

抗がん剤治療が始まる前から、お口の中の細菌を管理しておけば、抗がん剤治療中や回復期の細菌管理もより容易になり、効果も上がります。

■抗がん剤治療中及び回復期

抗がん剤治療が始まると、一定の期間、骨髄の働きが低下し、白血球が減少したりして、免疫力が低下してくることが多いです。

このような時は、抜歯に代表される観血的処置などの積極的な治療は出来ませんので、歯医者は口腔ケアを丁寧に行って、お口の中で感染による症状が発現しないようにします。

また、口内炎が生じてしまった時は、軟膏やうがい薬を処方して治療を試みますが、お口全体に及ぶような広範囲の口内炎の場合は、炎症を抑える作用のある薬と麻酔薬を組み合わせたうがい薬を薬剤師さんに調合してもらい、お口の痛みを取り除くようにします。

口内炎の発生や痛みの増悪の原因がお口の内部での感染である場合もあるので、口腔ケアを丁寧に行うことは、口内炎を改善することにつながります。

抗がん剤治療の開始前から回復期までの全期間を通して、口腔ケアはとても重要なのです。歯医者の果たすべき役割は大きいと言えるでしょう。


まとめ

がん治療を受けた場合のお口の中の環境を、治療開始前と治療中、治療直後で比較すると、口内炎の多発、虫歯や歯周病の発生など、顕著な悪化を認めます。お口の中の環境が悪化すると、痛みのために食事や会話が困難になり、がん治療で苦しんでいる患者さんをさらに苦しめることになります。

しかし、口腔ケアの場合、歯医者の立場でがん患者さんにサポートすることができます。なぜなら、がん治療中に起こる悪化の原因は、お口の中の細菌にあるからです。

この期間に、歯医者が口腔ケアをしっかり行いお口の中の細菌を管理すると、お口の中の細菌数を減らすことができます。その結果、口内炎や虫歯、歯周病などの発生を抑え、お口の痛みを軽くすることが可能になります。

この効果をより高めるためには、がん治療が始まる前から口腔ケア等の歯科治療を行うことがポイントです。治療前に細菌管理が行えていると、治療中や回復期の細菌管理が容易になり、症状の緩和効果が高まるからです。

近年、がん治療において、治療の開始前から回復期までの周術期における口腔ケアの重要性が改めて見直され、厚生労働省も口腔ケアによる合併症の予防効果を重視するようになりました。がん治療を受けている患者さんの苦しみを少しでも軽くし、QOLを向上させるために、口腔ケアはとても重要なのです。


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