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歯科コラム

歯周病も食事で予防する時代?海藻食を指導しよう

歯周病の改善および予防に、海藻が注目されています。海藻に含まれる成分が歯周病を予防する効果を引き出すと言われています。海藻を含んだ食事指導を取り入れるに際し、どのようにアプローチすればよいのかなど、海藻の働きについて着目してみました。

血中カルシウムの低下が歯周病の悪化を招く

血中カルシウムの低下が歯周病の悪化を招く

「カルシウムは強く丈夫な骨を作る」とは医療知識がなくとも、大人から子どもまで幅広く認識されています。子どもは小魚や牛乳などでカルシウムを積極的に摂取することで骨の成長を促しますが、成人で特に歯周病の患者の場合、カルシウムの過剰摂取がかえって歯周病の悪化を招き、さらには動脈硬化などを引き起こすリスクがあると考えられています。

カルシウムを摂取することで、その大部分はまず歯や骨に蓄えられます。そして残りの一部がカルシウムイオン化し、細胞内に貯蓄されたのちにポンプの力で血液に流れ込みます。このカルシウムイオンは体の健康を保つ上で大変重要な役割を果たしますが、年齢を重ねるにつれポンプの力が弱まり、血中に送られるべきカルシウムイオンの量が減少します。つまり血管に押し上げられるべきカルシウムが細胞内に留まったまま、排出されなくなる状態になってしまいます。本来体内に必要とされるカルシウムイオンが不足することで、今度は骨に蓄えられたカルシウムが溶け出しますが、真っ先に溶ける場所が歯槽骨および歯なのです。そのため歯槽骨が薄くなり、歯に動揺が出てきます。

また血中に押し上げられず細胞内に溜まったカルシウムは一定量以上の水分を含んで膨れてしまって細胞内の濃度のバランスを崩し、やがてはじけてしまいます。こうなると動脈硬化、腎臓結石といった病気のリスクを高めます。このようにカルシウムを過剰摂取することが、かえって歯周病や全身の健康に良くない結果を引き起こすことがあります。

過剰摂取したカルシウムの排出を促すマグネシウム

血液を介して全身へと巡り、全身の健康を保つべきカルシウムですが、加齢により細胞内に溜まってしまったカルシウムを血中へと送り込む役割を果たすのが、マグネシウムです。マグネシウムはカルシウムと同じく骨や歯の形成に不可欠な栄養素です。また血糖値を正常にし、エネルギーの代謝および血圧の調整に働く重要な役割があります。マグネシウムは生命維持に欠かせず、腎機能障害や甲状腺障害がない限り、積極的に摂取しても問題はないとされています。海外では既に海藻の摂取が推奨されていると言われていますが、日本ではどちらかといえば積極的なカルシウム摂取のほうが優先的に推奨されている傾向があるため、かえって歯周病などの悪化を招く事態になってしまいます。
日本は海に囲まれ、食文化的にも海藻を摂取する機会に恵まれています。海藻に含まれるマグネシウムの働きを再度見直し、普段の食生活に積極的に取り入れることが望ましいでしょう。

海藻の持つ働き

海藻の持つ働き

海藻とは、その名のとおり海水に生息するもので、色の違いは海藻の生えている水深により違いが出てきます。
では、どんな海藻がどのような栄養素を含み、どのような効果があるのかをご紹介します。

■緑藻類(りょくそうるい)・・・きれいな緑色の海藻類
マグネシウム、鉄、銅、アルミニウムを豊富に含む
あおのり、アオサ、ミルなど

■褐藻類(かっそうるい)・・・茶色っぽい緑色の海藻類
アルギン酸を豊富に含み、血中コレステロールの低下や高血圧予防などに働く
こんぶ、わかめ、ひじき、もずくなど

■紅藻類(こうそうるい)・・・赤色の色素を持った海藻類
ミネラル含有量は多くなく、どちらかと言えばビタミンが豊富
アマノリ類、トサカノリ、オゴノリ、フノリなど

海藻類にはマグネシウム、ミネラルの他にも食物繊維や鉄分など、体の機能を正常に保つ栄養素を豊富に含んでいます。これらは歯や歯槽骨だけでなく、全身の健康を保つために非常に重要な役割を持っています。

特にミルに含まれる「ミルレクチン」には細菌がバイオフィルムを形成しにくくする成分があると報告されており、ミルレクチンを配合した口腔ケアグッズも販売されています。また海藻成分を含んだサプリメントなどもたくさん市販されていることから、これは海藻の持つ効果が健康によいと認識されている証でもあります。ただ海藻が、歯周病の予防に効果があると広く知られているかどうかはまだ何とも言えないでしょう。

歯周病の改善が糖尿病や肝炎などの改善へ

海藻はマグネシウムを豊富に含み、カルシウムの血中濃度の低下を防ぐだけでなく、バイオフィルムを形成しにくくする成分があると言われています。歯周病は生活習慣病でもあるため、日々の食生活が大きく影響します。特にバイオフィルムの形成に大きく関わる糖質とカルシウムの過剰摂取を控えることが、歯周病の予防に効果的です。
糖質の過剰摂取は炎症物質であるサイトカインを分泌させ、歯ぐきに炎症を起こすことで歯周病を引き起こします。そのため糖尿病の患者はインシュリンの分泌が不足し、血糖値が上昇することでより糖尿病を悪化させます。また歯周病菌が肝臓にも影響を与え、肝炎をも引き起こすことがわかっており、糖質の過剰摂取が歯周病を発症し、これらの全身疾患を誘発することは既にわかっています。

一方でカルシウムの過剰摂取は上記のように、歯や歯槽骨を脆くするため、歯周病の進行を早めます。日常の食生活で糖質制限とカルシウムの過剰摂取を抑制し、食生活の改善が重要となってくるでしょう。
歯周病を改善することで、糖尿病や動脈硬化、肝炎などが改善されやすくなることを患者自身がしっかりと認識するようなアプローチが必要です。

歯周内科と海藻食の指導で新たな歯周病治療とその予防へ

歯周病の治療はそのほとんどがスケーリング、SRP、F-opなど外科治療が占めており、次いで顕微鏡を用い、ジスロマックやぺリオバスターなどを用いた歯周内科が行われています。
一方で歯科医院による食事指導となると、思い浮かぶのは子どもに対するおやつ指導や妊婦への食事指導、そして高齢者の口腔ケアの一環とした食事指導がほとんどです。そしてそのほとんどが糖質をメインとした内容になっており、海藻食をメインとした歯周病予防の食事指導はほとんど浸透していないのではないでしょうか。
糖質が持つ性質がカリエスリスクや歯周病リスクを高めることはもちろんですが、これからは食事内容で歯周病を予防する時代になってくると予想されます。他院との差別化をはかるためにも糖質制限の食事指導だけでなく、海藻を積極的に取り入れることで歯周病にどのような効果が現れるのか、海藻を取り込んだ食事指導に力を入れてみてはいかがでしょうか。

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