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気になるアレコレまとめました!医師の為の歯科コラム
歯科コラム

これからの歯科治療/地域医療の担い手として

高度な専門化の進行により、現在医科では他の診療科との連携が必要不可欠となっています。いわゆるチーム医療です。

このチーム医療の流れは歯科にも及んでおり、チーム医療に歯科医師が参加することが求められるようになってきました。そこで、地域医療の担い手として医師と歯科医師が行うチーム医療について、具体例を挙げてまとめてみました。

NST(Nutrition Support Team)

NST(Nutrition Support Team)
NSTとは、栄養サポートチーム、栄養支援組織などと日本語では訳されています。

このチームの役割は、人間が生きていく上で根本的に大切な栄養摂取という行為が難しくなった方に対して、適切な栄養管理を行なうことにあります。そのために、医師や歯科医師などさまざまな医療職種が、それぞれの壁を乗り越えて協力しているという特徴があります。

■サポートチームを構成する医療職種の例
ここにある職種がすべてNSTに加入しているわけではありません。各医療施設によってNSTを構成する医療職種やその割合には差があります。NSTのメンバーになりうる医療職としては、医師、歯科医師、薬剤師、看護師、歯科衛生士、管理栄養士、臨床検査技師、理学療法士、作業療法士などがあげられます。

・医師
医師は、NSTの司令塔の役割を果たします。
医師の立場から、患者の摂食状況だけでなく検査結果、全身状態を把握し、他職種からの情報を集めて総合的に判断します。栄養状態の改善のために指示を出します。

・歯科医師
歯科医師は、対象となる患者のお口の状態をチェックします。たとえば義歯がない、義歯があっても不適合である、歯周病で歯が動揺して噛みにくい、う蝕で噛めないなど、摂食に支障がある状態を判断します。必要に応じて、義歯調整、義歯製作、抜歯、う蝕治療などを患者やその家族に提案します。嚥下造影検査や内視鏡検査を行なうこともあります。

・薬剤師
薬剤師は、対象となる患者の現在の服薬状況などを把握し、飲み込みにくいと思われる場合などに、投与薬剤の剤形や投与方法の変更を提案します。また、輸液による栄養補給がいいか、輸液に頼る場合は、末梢からの輸液がいいか、中心静脈栄養とするか、経鼻からの栄養補給がいいか、薬理学的見地からの検討も行います。

・看護師
看護師は、食事の摂食状況のチェックや、点滴ルートの管理、経鼻栄養の場合はカテーテルの管理、胃瘻の場合は栄養剤の注入などを行ないます。また、身体状況の管理や報告も看護師の大切な役割です。

・歯科衛生士
歯科衛生士は、口腔ケアを主に担当します。歯科医師とともに口腔状態の評価も行います。看護師が行なう口腔ケアをサポートし、改善方法を指示することもあります。
・管理栄養士
管理栄養士は、摂食状況をみてより食べやすい形態に変えたり、食事量を増減したりします。栄養バランス面からの情報提供は、NSTのなかでも特に大切です。

・臨床検査技師
臨床検査技師は、血液検査の結果を報告し、全身状態を把握しやすくします。

・理学療法士や作業療法士
理学療法士や作業療法士は、全身の筋力の把握を行ない、日常生活動作の評価を行います。必要に応じてリハビリテーションを実施します。

■栄養サポートチーム連携加算
平成28年度の診療報酬の改定により、新しく栄養サポートチーム連携加算が導入されました。
厚生労働省が、加算という形で診療報酬に反映したということは、歯科医師が栄養サポートチームの担い手であると、国が認めたことを示しています。

口腔ケア

肺炎は、現在の日本人の死因の上位を占めています。肺炎を防ぐことは生命予後の点からとても重要になってきます。特に高齢者の場合、誤嚥による肺炎、すなわち誤嚥性肺炎の予防が求められています。

誤嚥性肺炎の予防の鍵となるのが、口腔ケアです。誤嚥性肺炎を起こす原因となるのが、お口の中の汚れや細菌です。口腔ケアを確実に実施すると、肺炎の罹患率や、死亡率を低下させることができることがわかっています。

もちろん、誤嚥性肺炎の治療を行うのは医師です。しかし誤嚥性肺炎の予防は、歯科医師の仕事であると言っても過言ではありません。そこに、歯科医師が肺炎のチーム医療に参加する意義が生まれてきます。

現在は、口腔ケアを行うための特別な診療報酬は、がん治療の周術期口腔機能管理などに限られています。口腔ケアによる誤嚥性肺炎のリスク低下や死亡率減少はデータがそろっています。歯科医師は、もっと誤嚥性肺炎予防の担い手であるということを訴えていくべきでしょう。

糖尿病患者の歯周病治療

糖尿病患者の歯周病治療
歯周病は、糖尿病の合併症の一つとしてあげられています。糖尿病になると、細菌感染への抵抗性が減弱します。歯周病は細菌感染が原因の疾患です。したがって、糖尿病は歯周病を増悪させる要因の一つとなります。

一方、歯周病になると、歯周病菌に対して人間の体は免疫力を発現します。その結果、様々なサイトカインを分泌するようになります。ところが、サイトカインには、インスリンの作用を阻害する性質があるのです。インスリンの作用を阻害する作用のことを、インスリン抵抗性と言います。

すなわち歯周病になるとインスリン抵抗性が発現し、糖尿病が増悪するのです。そして、糖尿病の増悪が歯周病の悪化につながるという、負のスパイラルに陥ってしまいます。

そこで、歯周病を治療すると、負のスパイラルを断ち切り、糖尿病のコントロールを改善させることができます。歯周病の治療とは、スケーリングやSRP、プラークコントロールです。まさに歯科医師の得意とするところです。
地域の医師と歯科医師が連携してチームで治療にあたるということは、より効果的な糖尿病治療を行うための第一歩なのです。

睡眠時無呼吸症候群の治療

睡眠時無呼吸症候群は、CPAPと呼ばれる持続陽圧呼吸療法や口腔内装置を使った治療が行われます。歯科医師は、睡眠時無呼吸症候群の確定診断をすることはできませんが、反対に医師は口腔内装置を作成することはできません。

口腔内装置とは、スプリントのことです。口腔内装置の作成ができるのは歯科医師のみです。確かにすべての睡眠時無呼吸症候群に対して口腔内装置が適応となるわけではありません。しかし、CPAPではなく口腔内装置による睡眠時無呼吸症候群の治療が必要なケースがあります。このようなケースでは、医師と歯科医師の連携した治療が要求されるのです。

まとめ

これまでの歯科医療では、歯科医師はむし歯や歯周病の治療を行なっていれば十分でした。しかし、これからの歯科医師は従来型の歯科治療のみでは、国民の期待に応えることはできなくなると思われます。

歯科医師は、一本一本の歯の治療から脱却し、全身管理という視点からの歯科治療を行なっていくように努めなければなりません。そのためには、卒後研修を全身管理という医師のそれと同じコンセプトで行っていく必要があると考えます。

現在、NSTや誤嚥性肺炎、糖尿病などの全身疾患のチーム医療に歯科医師が加わる重要性が増しています。単なるむし歯を治す歯科医師から、地域の医療の担い手たる歯科医師に成長することが求められています。

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