世界最古の歯磨き粉はエジプト!では他の国は何で磨いていたのか
人は当たり前のように食後は必ず「歯を磨く」という行為を行っています。その衛生的習慣は紀元前の頃から行われ始めていたようですが、では『歯磨き粉』が使われ始めたのはいつからなのでしょうか。
歯を磨くためには「歯ブラシ」や「フロス」といった、それに適した道具があれば十分であったはず。しかし、いつどういったことをきっかけに『歯磨き粉』を使って歯を磨くという行為が行われ始めたのでしょうか。
今回は、世界中のさまざまな『歯磨き粉』の歴史と、歯磨き粉に隠された意外な豆知識についてご紹介します。
歴史上初の歯磨き粉
歴史上で最古の歯磨き粉と言われているのは、紀元前の古代エジプトの医学書に記されたものであるとされています。
その歯磨き粉は「ビンロウの実」「蜂蜜」「燧石(すいせき)」「緑青」「乳香」「粘土」といった材料をすべて混ぜ合わせたものであるそう。
それを聞いただけでは、非常に想像のつきにくい状態の歯磨き粉ではないでしょうか。
まず「ビンロウの実」はヤシ科の植物の実であり、これは粉末状に砕いて使用していました。「ビンロウ」は噛みタバコ、ガムといった嗜好品や、虫下しの薬、漢方などにも使用されているさまざまな用途がある実です。
次に「蜂蜜」は甘味料と結合剤として使われ、「乳香」は香料、「燧石」は研磨剤として使用されていました。「燧石」は火打石とも言います。
「緑青」は銅などが酸化した際に付着する錆ですが、これは細菌活動の抑制と殺菌効果が得られるために使用されていたそうです。
そして「粘土」は、ナイル川が氾濫した際に川から運ばれる肥沃な土から作られた緑の粘土であり、これはそのまま研磨剤や結合剤として使用されました。
これらをすべて練り合わせ、ペースト状の歯磨き粉が作られていたことが想像できるかと思います。
また時代が進み4世紀頃になると、エジプトでは粉末状の歯磨き粉が使われるようになりました。
その成分は「食塩」「黒胡椒」「ミント」「アイリスの花」であり、ひとつひとつの材料が殺菌や解毒の効果を発揮するものであることがわかります。
すなわち最古の歯磨き粉は、現代と同じく口のなかの細菌を減らすことを目的として作られていたということを窺い知ることができます。
諸外国の歯磨き粉の歴史
エジプトを問わず、世界各国でも歯磨き粉の歴史があります。
ここでは歯磨き粉として国によって使用されていたものや、使用していた目的などをご紹介していきます。
■アメリカ
まずアメリカの歯磨き粉の歴史をご紹介します。
アメリカでは18世紀頃から歯磨き粉が使用されるようになりました。しかしアメリカ全土で広く歯磨き粉が使用されるようになったのは19世紀以降からであり、それまではほとんどの人が水と歯ブラシだけで歯を磨いていたようです。
最古の歯磨き粉としては、歯磨剤のなかに焦げたパンを混ぜたものを使用していたことが判明しました。そのほかに混合樹脂のなかにシナモンや焦げたミョウバンを混ぜた歯磨き粉も使用されていたようです。
また当時の歯磨き粉は自家製のものが多く、「チョークの粉」や「レンガを砕いた粉」または「食塩」などを混ぜ合わせたものが使用されていました。
さらに家庭百科事典では、「木炭」を砕いたものを歯磨き粉として使用すると良いことが紹介されてもいました。
無論、市場で販売されていた歯磨き粉もありました。しかし当時の歯磨き粉は有害な物質が多く含まれていたことがわかっていたため、あまり使用するべきでないと注意喚起されていました。
その後、20世紀以降からチューブに入れられたペースト状の歯磨き粉が広まりはじめ、フッ素を含んだ歯磨き粉も登場します。そして改良を重ねた結果、現在のように市民に親しまれるものとなっていったようです。
■日本
日本の最古の歯磨き粉は1625年に登場しました。
当時、江戸の商人である「丁字屋喜左衛門」は「丁字屋歯磨」もしくは「大明香薬」という商品名の歯磨き粉を販売しました。
この歯磨き粉は「琢砂」という非常に目の細かい研磨剤と「丁字」「龍脳」という漢方薬を混ぜたものであり、歯の漂白効果と口臭の抑制効果が謳われていました。
また当時は「丁字屋歯磨」と一緒に「房楊枝」を使用した歯磨きが非常に流行したため、浅草寺にはたくさんの「房楊枝」の店が軒を連ねていたとのことです。
それまでは「塩」などを歯磨き粉として使用することが一般的な歯磨きでした。
■古代ローマ
古代ローマの最古の歯磨き粉は、今となっては考えられないものが使用されていました。それは「ポルトガル人の排尿」です。
当時「ポルトガル人の排尿」で歯を磨くと歯が白くなるという豆知識が広まっていたため、わざわざ「ポルトガル人の排尿」を購入して歯磨きに使用していました。
実際、尿に含まれる「アンモニア」には漂白効果があったため、当時の豆知識は決して思い込みや勘違いなどではなかったようです。
現在も一般的に使用されている歯のホワイトニングのジェルには「尿素」が含まれているものがほとんどです。
そのため尿を使用した歯磨き粉は18世紀まで使用され続け、その後は焼いた動物の骨や卵の殻の粉末を歯磨き粉として使用されるようになりました。
意外な歯磨き粉効果
遠い昔は、現在ほど歯磨き粉に対する研究が行われていませんでした。
そのため実際に使われていたものが本当に期待していた歯磨き粉として効果を発揮していたのかどうかは疑わしいものがあるかと思います。
しかし、はじめにご紹介したエジプトの練り歯磨き粉に使用されている「蜂蜜」には、ミュータンス菌の活動を抑制する効果があるということが現在では確認されています。そのため歯磨き粉の材料にしていた目的は異なれど、「蜂蜜」を歯磨き粉の材料にしていたことには虫歯予防の効果があったということなのです。
また「塩」には古くから殺菌、消毒の効果があったことが知られていたため、口のなかを清める際に「塩」を使用して歯を磨くということは不自然なことではありませんでした。
さらにインドや中国では、歯磨き粉を使用せずに「ニーム」という木を使用した「歯木」で歯を磨いたそうです。ところがこのニームの樹液には虫歯と歯周病を予防できる成分が含まれていたことがわかり、「歯木」そのものに歯磨き粉としての成分が含まれていたという意外な事実が判明しました。
このように、当時の歯磨き粉には、驚くべきことに使用されていた理由とそれぞれに期待されていた効果がしっかり合致していたのです。
これらは現代においても、一般的に使われている「歯磨き粉」以外に「虫歯や歯周病効果のあるもの」として豆知識に役立てられるかもしれません。
歯磨き粉に求められていた価値観
当時の世界各国で使用されていた最古の歯磨き粉は、それぞれの国の価値観などから歯磨き粉に期待する効果が異なっていたことが窺い知れました。
エジプトでは紀元前から「口のなかを清潔にできる歯磨き粉」に価値観が置かれ、日本やローマでは「歯を白くできる歯磨き粉」に価値観が置かれていました。
このようにかつて使用されていた歯磨き粉の材料を豆知識とし、市販で売られている歯磨き粉以外のもので歯を磨いてみることも良いかもしれません。