歯科医院に障がいのある方が治療に来たら|知っておくべき対応法
これまでの歯科診療において、受診した患者様のなかに何らかの障がいを持つ方もいたことがあるかと思います。その際は適切な対応や治療ができていたでしょうか?また患者様やそのご家族、あるいは介護者の方々からの要望をちゃんと汲むことができていたでしょうか?
実際は障がいのある患者様を治療した経験がないために、ついつい受診を断ってしまったことがあるというところは決して少なくないと思われます。そのため今回は、もし障がいのある患者様が来院してきた場合の適切な対応や治療などについてご紹介したいと思います。
障がいを理解する
障がいのある患者様を診察するためには、まずそれぞれが抱える障がいを理解しなくてはいけません。その患者様が抱える障がいによって可能なことと不可能なことがあり、また通常のコミュニケーションを取ることすら難しい場合もあります。そこで代表的な障がいのなかから、それぞれの障がいの特徴と適切な対応についてご紹介したいと思います。
■知的障害
「知的障害」の定義は、知的機能と適応行動に何らかの能力障害が見られることです。次にその障がいの具体的な特徴をあげていきます。
「集中力が散漫になりやすいために認知が難しい」
「想像する力があまりないため知らないことや理解できないことに混乱してしまいやすい」
「記憶や学習が苦手であるため、新たなことを身につけ受け入れることが難しい」
「相手の言葉を理解することが難しく、自分の思いや考えを表に出すことが困難な場合がある」
「わずかなことに気分が変わりやすく、今までできたことが突然できなくなったりその時の感情を体で表す」
「集中力が続かず興味のない物への意欲が低いため、何かをやり続けることが困難な場合がある」
以上のような特徴が見られます。
このことから、知的障害がある患者様は長い時間集中していることが難しく、歯科医院や歯科治療に慣れるためにたくさんの月日を費やす必要があることが理解できます。
また言葉で伝えるだけではすべてを理解することが難しいため、これからやることや使うものを絵に描いたカードやパネルなどを相手に見せるといった配慮も必要です。
さらにその場の雰囲気にとても敏感であるため、患者様が落ちつくことができる環境を整えることも大切です。そして患者様自身が歯医者へ通うことに意欲的になってもらうために、その日の診察や治療が終わったあとは必ず相手を褒めることが一番重要です。
■自閉症
「自閉症」とは発達障害のひとつです。その障がいの特徴は、
「言葉の発達の遅れにより意思伝達が困難である」
「他者との常識的なコミュニケーションが困難である」
「非常に独特で強いこだわりを持っている」
などがあります。
またこれら以外にも音や光やにおいなどに過敏に反応する感覚異常や、同じ動作や行為を何度も繰り返すなどの特徴を持つ場合もあります。さらにそれらの症状はひとりひとり個人差があり、知的障害にいたる場合もあれば日常生活にあまり支障のない程度の場合もあります。
非常に特徴的な障がいを持つ場合、おもに言語の理解が難しく、接触行動やじっとしていること、また大きな音や声などが苦手です。また日常的に行っていないこと(予定にないこと)があると不安を覚えるといったこともあります。
よって、コミュニケーションを取るためには絵や文字が描かれたカードを使って行い、無理に触ったり抑えたりせずに何度も通院をして歯医者に慣れてもらう必要があります。また自閉症の患者様は時間制限を設けていないことを長く続けることが困難であるため、5秒や10秒のカウントを行ったりタイマーを使うと良いでしょう。
■ダウン症
「ダウン症」は「ダウン症候群」とも呼び、染色体異常による先天性の疾患です。多くの方は「ダウン症」独特の顔貌をしており、複数の疾患を合併している場合があります。
また歯周病に罹患しやすかったり、先天性欠損歯があったりなど口腔内における異常を抱えている場合が多いため、治療の必要性が高くなります。
しかし、新たなことを始めるのが苦手な場合があるため、最初はなかなか協力に応じてくれない可能性があります。その場合は何度も通院をしてもらい、口のなかを見られることや口のなかを触られることに慣れてもらうようにしましょう。
また合併症の疾患などがないかをチェックすることも忘れてはいけません。
■脳性麻痺
「脳性麻痺」は受精から生後4週までのあいだに脳に何らかの損傷を受けたことによる運動機能や姿勢の異常などの障害です。
原始反射による異常な姿勢と筋緊張などにより楽な姿勢が取りづらく、それにより呼吸の異常が起こりやすく誤嚥もしやすいことが問題となっています。そのため長時間の開口の困難や、開口のしすぎによる呼吸困難などに注意しなくてはいけません。
また咬筋や咀嚼筋などの緊張亢進の影響により顎の異常な側方運動をしてしまうことがあるため、補綴物の調整が困難になることがあります。さらに強い咬合力と側方運動と歯周病が重なり、歯周病が急速に進行し、早期の歯の喪失を招いてしまうおそれもあります。
これらの特徴をよく理解し、患者様にとって楽な姿勢で休憩を取りながらの治療を行うことを心がけましょう。
障がい者の家族や介護者が求めていること
障がい者のご家族や介護者が地域歯科に求めることはとても切実なことです。近くに障害者歯科がないために地域歯科に相談し、「障がいがあり、通常の治療は難しい」ということを打ち明けると多くの場合は受診を断られてしまうと言います。こういったことは良くあると言われていますが、関係する方の気持ちを考えるといたたまれない気持ちになってしまいます。
またもし受診することが決まっても治療の際の説明がなかったり、治療までに長い時間待たされてしまうこともあるようです。それにより歯医者に対する強い恐怖心が植えつけられ、歯医者に行くこと自体を拒まれるようになってしまうことを避けたいと家族の方や介護者は考えています。
もし治療の必要があっても治療を急ごうとせず、患者様ができることから始めていき、焦らず根気強く慣れるまで待ってほしいというのが強い要望です。そのため治療よりも予防を中心とした治療を望んでいる場合が多く、そのことを理解してほしいと多くの方は考えています。
障がいがあるために可能なことと不可能なことがあることを理解し、また歯科医院側も障がいを持つ方だからと無理をせずにできる範囲で対応するようにすると良いでしょう。
そうすることで患者様側も歯科医院側も負担を感じることなく、長くつきあっていける理想的な関係を築くことができるからです。
まずは相談、次は対面、そういった最初の一歩一歩をしっかりゆっくりと踏んで前へ進んでいくことが、障がい者の家族や介護者にとって理想的な治療なのです。
障がいを理解する歯科医院が求められている
身体的、精神的、知能的にさまざまな障がいを持つ方の治療を受け入れる「障害者歯科」は全国的にまだまだ不足している状態です。なかなか治療や通院が難しいご家庭のために少しでも障がいを理解し、障がいのある患者様に歩み寄ることで救われる方も多いと言われています。
またそれにより診療の幅も広がり、さまざまな患者様の苦悩を聞くこともできるようになります。ぜひ今後の診察の参考にしてみてください。