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歯科コラム

歯と認知症との関わり|認知症患者への接し方

認知症は特殊な疾患というよりも、身近な病気になりつつあります。今後は現在にも増して、認知症患者に対する理解ある接し方が求められていくことでしょう。歯科医師が診療中に、患者が認知症を発症していることが明らかになるケースもあります。

認知症患者に対応する際の留意点、さらにどんな症状があると認知症が疑われるのかという点について考えてみましょう。

歯科と認知症の関わり

歯科と認知症の関わり
まず歯科疾患と認知症の関係性は決して皆無ではありません。認知症が発症すると口腔内環境にも悪影響を及ぼす、反対に歯科疾患が認知症発症のリスクを高めるなど、歯科と認知症発症は相互に影響しあいます。歯科と認知症にはどのような関わりがあるのでしょうか。

■認知症発症から口腔内環境悪化へ
認知症発症により患者の自発的な口腔清掃の習慣が乱れ、清潔な口腔内環境の保持が妨げられる場合があります。中等度の認知症患者で口腔清掃がセルフケアのみである場合、口腔内環境は著しく悪化していき、う蝕や歯周疾患を進行させていきます。

軽度の認知症患者の場合も同様に自発性の低下や手指の巧緻性の低下があるため、セルフケアが不十分になりがちです。また認知症は義歯にも影響を与えて、健常者に比べて着脱や清掃が以前より難しくなったり、義歯の誤飲誤嚥などの事故が起こったりすることもあります。

さらに口腔内が不潔になることは、口内炎やカンジダ症などの粘膜疾患も引き起こしかねません。以前から粘膜疾患があった場合でも、認知症により治りにくくなります。また認知症が重度になると咀嚼機能も低下していきます。それは認知症の進行によって咀嚼筋など筋機能が低下すること、また協調運動が低下することなどに由来します。認知症進行により摂食嚥下機能も低下していきます。

■歯科疾患が招く認知症発症のリスク
逆にう蝕や歯周疾患の進行から、認知症発症のリスクを高めてしまうこともあります。う蝕の多発などにより残存歯が現象すると咀嚼機能が低下し、咀嚼機能が低下している患者は認知症発症のリスクが高くなるという調査データがあります。

残存歯がほとんどない人の中で、義歯を使用していない人と使用している人を比べると、義歯を使用していない人の方が認知症発症リスクが高くなることも報告されています。口腔内環境の悪化と認知症発症は少なからず関連があるようです。

認知症患者が来院したら

患者が認知症患者であるとはっきりしているなら、歯科医師も含め歯科医院のスタッフで認知症患者に対する接し方のポイントをいくつか押さえておきましょう。これからあげるポイントはすべての認知症患者に見られる傾向ではないので、自分の患者の認知症進行がどの程度なのかもあらかじめ知っておく方が良いでしょう。

■言葉で痛みを訴えるとは限らない
認知症は感覚異常という症状も引き起こします。または歯が痛い、と感じていても言葉にして言い表せない場合もあるので別の行動で痛みを表していることもあります。例えば口をなかなか開けてくれないというような行為がそうかもしれません。人によって表し方は異なるので、言葉だけでなく患者の動きの変化にも目を配り、細かなサインに素早く気づけるようにしましょう。

■信頼関係を築く
認知症患者と接する際の最も大切な留意点と言えるかもしれませが、言葉や態度など接し方には十分に配慮して下さい。例えば初期認知症はまだ自分が認知症であるという自覚があるので、できないことばかりを指摘されると自尊心を失い、歯科受診を拒んでしまいやすいです。

確かに認知症患者は健常者に比べて理解や動作に時間がかかります。しかし認知症患者の前で決して怒りをあらわにしないようにしましょう。歯科医師が患者を主導していくのでなく、相手のペースに合わせて一緒に治療していくスタンスで認知症患者と向き合って下さい。認知症が病気であるという点を忘れず、患者の感情を傷つけないように接し方にも気を付けましょう。

■作業を一緒に行う
認知症患者にとって、一連の作業を順番に覚えていくのはとても大変です。ブラッシングにしてもそうで、例えば歯ブラシを持ち、歯磨剤のキャップを開け、歯ブラシに歯磨剤をのせて、等の指示を一度に与えられても覚えきれません。

一つの作業が終わったらまた次の作業というように、手順を確認しながら一緒に行うようにしましょう。ただ順序を説明するだけでなく、一緒に行っていくと体に残った感覚で患者が覚えられるようになります。

■うがいが出来るか
これは実際の治療に関する留意点ですが、認知症が進行すると筋機能の低下により徐々にうがいが出来なくなっていきます。また筋機能は低下していなくても記憶障害により、患者はうがいをどうやってするのかさえも忘れてしまう場合もあります。

いずれの理由にせよ患者が自分でうがいができないなら、治療に用いる器具から口腔ケアの指導内容も変わってきます。治療を始める前にまずうがい出来るかどうかを確認しておきましょう。

認知症が疑われる症状

認知症が疑われる症状
そもそも患者自身が認知症を発症していることを分かっていないまま歯科を受診している場合もあります。ですから歯科スタッフが診療を通して感じた患者の変化から、いち早く認知症発症に気付けるかもしれません。

例えば認知症の症状のひとつとして記憶障害があります。日常生活における記憶障害は、歯を磨いたかどうかを忘れる、義歯をどこに置いたか忘れるなどが含まれます。もし患者が日常のセルフケアを忘れてしまうと口腔内環境が一気に悪化していき、う蝕増加や歯周疾患の悪化などが顕著に見られます。

また、急激な口腔内環境悪化のほかにも、義歯に関して今までしなかったような扱い方をすることもあります。義歯を外してティッシュなどでくるんだものの、そのティッシュが何なのかを忘れてしまい、ゴミとして捨ててしまうといったケースがあります。

しかし、認知症の記憶障害は単なる物忘れと混同しやすいので、歯科医師は軽率に判断しないように注意しなければいけません

まとめ

認知症患者が歯の治療に対して不安や恐怖を抱いてしまうと、通院が難しくなり、歯の治療が思うように進まない事態を招いてしまうこともあります。
逆に、信頼関係を築くことができれば、きちんと歯の治療をすることができ、認知症の進行を遅らせることもできるかもしれません。歯科従事者として認知症患者を診る際には患者の良き理解者になれるよう努めていきましょう。
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