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気になるアレコレまとめました!医師の為の歯科コラム
歯科コラム

高齢患者への治療で気を付けるべきこと

高齢化社会が叫ばれる現代、一般開業の歯科医院においては、准高齢者と呼ばれる65~74歳、高齢者と呼ばれる75歳以上の方の受診が増えているのではないでしょうか。
 
准高齢者や高齢者を診療するにあたり、歯科医師や歯科衛生士などの医療従事者が気を付けなくてはならないことは数多くあります。

まず高齢者の特徴を知ること

まず高齢者の特徴を知ること
一見健康そうに見える人であっても、疾病を抱えていたり病後の服薬管理下にあったりする人は少なくありません。必ず診療の際にはお薬手帳を持参してもらい、問診の際には服薬の確認が必要です。

また、老化に伴い免疫力が低下しているため、感染症にかかりやすく治りにくいといった特徴もあります。

■特に注意が必要な疾病
高血圧症、脳血管障害、心疾患、糖尿病、認知症、ウィルス性肝炎などが代表的なものです。かかりつけの医科と連携し、治療を進める必要があります。特に抜歯などの観血処置をする場合は、細心の注意が必要です。

■配慮が必要な疾病
白内障や難聴、腰痛、関節痛、睡眠障害などにも着眼し、診療する際の誘導や声かけにも気を配る必要があります。場合によってはご家族に相談して治療計画を立てる必要があります。

■生活習慣
高齢者の方は比較的時間に余裕がありますが、学生や会社員に比べて活動時間は人それぞれです。朝早く活動を始める人と、午後になって活動が活発になる人がいます。また家族の送迎をしてもらうなどの都合がある人もいます。

予約しても失念する、勘違いして別の日に来院する、または突然思い立って来院するといったことは少なくありません。そのような時に、どう対応をするかを予め決めておくと、医院での混乱が避けられるでしょう。

口腔内の特徴を知ること

健康状態はもちろん、口腔内の特徴も熟知しておく必要があります。

■唾液分泌の減少
30歳頃には1日1.5リットルの唾液量が、1日0.5リットルに減少すると言われています。
唾液量が少ないことで自浄作用が低下し、う蝕や歯周疾患の発症リスクが上がります。

■味覚の低下
老化に伴い、味覚のほか五感のすべてが鈍感になる傾向が見られます。

■歯牙の動揺、喪失(義歯の装着)
免疫力や唾液の分泌量の低下から、歯周疾患が進みやすく歯牙の動揺や喪失が多くみられます。

■食欲の低下
老化に伴い基礎代謝が低下することに加え、唾液分泌量の低下、舌などの筋力の低下、歯牙の動揺や喪失なども起因して、食欲が低下します。

■むせやすい
加齢に伴い嚥下に必要な舌やのどの周りの筋肉が衰えていき、気管に唾液や水が入ってしまいます。歯科治療は水を多用しますので、イスはあまり倒さず、バキュームの他に排唾管を併用し、うがいを小まめにするなどの小休止を入れます。

高齢者に向けた治療の内容

高齢者に向けた治療の内容
高齢者が歯科を受診する理由として、QOL(quality of life=生活の質)の向上が最たるものといえます。治療時間を長く費やして、よりよい機能回復や審美性を高めることより、痛みを無くし美味しく食事が出来れば、それで満足である場合が多いのです。

高齢者と、歯科医師や歯科衛生士などの医療従事者の歯科医療に対する思いには、温度差があることが多く、トラブルの原因となることがあります。治療方法の選択肢を簡潔に説明し、高齢者に選んでもらうことで、トラブルの回避となります。

高齢者に向けた接遇

高齢者は、当然のことながら人生の大先輩です。能力は衰えているとはいえ、これまで社会を支えてきました。言葉や態度はいつでも、丁寧に敬う気持ちを以て接します。以下、歯科医院における接遇を挙げます。

■受付
はっきりと明るい笑顔で迎えます。動作がゆっくりであることが多いのですが、転倒などの事故に繋がりかねないので決して急かさず、ゆったりとした気持ちで対応します。

■電話
顔が見えず声だけの対応になるので、より注意が必要です。用件を聞いたら、ゆっくり丁寧に繰り返し、返答します。

■誘導
たとえ何度も来院している場合でも、ユニットまできちんと誘導します。まれに、ドクターのイスに座ってしまう高齢者もいます。

■ユニットでの姿勢
腰痛があったり、背中が丸まっていたりする方は、ユニットの設定を工夫しても対応し切れないことがあります。数種類クッションを用意して体の形状に出来るだけ合わせ、治療が楽に受けられるようにします。

■バックミュージックやタービンなどの機械音
高齢者は耳の遠いことがあり、バックミュージックがかかっていることで、より一層会話が成り立ちにくいことがあります。出来るだけ小さくするか、その方が終わるまで音源を消します。
また、義歯のレジン床を切削したり、口腔内にタービンやコントラを入れたりした状態で説明しても、音と緊張で正しく伝わりません。必ず静かな状態で、マスクをとって口元を見せて説明するようにします。

■うがいの介助
握力が小さいためコップを二重にするか、金属のコップを使います。スピットンに吐き出し易いよう位置を変えたり、背中を軽く押し支えてあげたりすると楽なようです。

■会計、次回の予約
高齢者は小銭を出すことを面倒と感じることがあり、紙幣で支払うことがよくあります。高齢者が多い歯科医院は、多めに釣り銭を用意しておくとよいでしょう。

次回の予約をとる時は、診察券に文字をはっきりと記入し、口頭でも確認します。可能な限り、診察券の他、領収書の空欄など複数に書きます。

またお預かりした保険証があれば、返し忘れに注意し、患者様がきちんとしまうところを見届けると良いでしょう。

院内をより安全な場所に

歯科医院が安全で安心して治療が受けられる場所となるためには、設備に配慮が必要です。段差を少なくするか、バリアフリーにし、段差のあるところでは声を掛けます。また玄関に、手すりやイス、柄の長い靴ベラなどを置き、靴の脱ぎ履きしやすいような工夫をします。トイレや診療室内にも手すりがあると、なお良いでしょう。

高齢者は、自転車や自動車などを使えなくなるので、自宅からできるだけ近い歯科医院に、残りの人生を預けることになります。

高齢者が安心して治療が受けられるよう、歯科医院側は様々なことに配慮する必要があります。患者様が美味しく食事ができるようにし、よりよい人生を送ることができるようにお手伝いする役割を歯科医院は担っているのです。

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