女性歯科医を積極的に採用している歯科医院の特徴は?
以前は働く女性は結婚、出産すると仕事との両立が難しくなり、再就職を諦めざるを得ない環境でした。しかし近年では、働く女性が再び社会復帰しやすいように雇用側も環境を整える取り組みを行っています。
では歯科業界は、ライフイベントなどのために一旦離職した女性歯科医に対して、どのような復職制度などが整えられているでしょうか。また女性歯科医を積極的に採用している歯科医院の特徴はいったいどんなところでしょうか。
女性特有のライフイベントによる離職
歯科に限らず、働く女性が退職する最大の理由は、結婚、妊娠出産です。結婚を機にそのまま退職する場合や、出産間近まで働き、離職することがほとんどです。また親の介護を理由に離職するなど、女性特有のライフイベントが離職の主な理由のほとんどを占めています。
女性歯科医に限らず、働く女性における再就職の最大のハードルは、子育てや家事と、仕事の両立です。特に小さな子どもがいる場合、思うように動くことがなかなかできません。保育園に子どもを預けても、ものの数時間もしないうちに熱を出したなどの理由で連絡を受けることも日常茶飯事です。また参観日や親子行事などのイベントも増え、女性歯科医としてよりも、母親としての時間のほうが当然比重が重くなります。
このように、これまでと違い、家事や子育てに対して比重が重くなるのは自然なことであり、当たり前となります。また休んでいる間に、技術をはじめとした仕事内容が時代の流れとともに進歩し、復帰したときには自分の居場所を失っているのではないかという大きな不安を抱くと思います。
特に歯科業界では、技術が日々進歩しています。子育てを終えて歯科業界に復帰しても、ブランクの間に技術や歯科材料などが進歩し、昔のやり方と異なる現状に戸惑うでしょう。
また家事、子育てなどのため離職以前と同じような勤務形態で働くこと自体、難しくなるのではないかという問題に直面する方がほとんどです。
医科の世界においては、院内保育所の完備など、いったん離職した女性医師が再び復職しやすいような支援体制が国により整えられています。採用条件も歯科に比べると圧倒的に優れており、この点において歯科は医科に大きく水をあけられていると言えます。
歯科では、女性歯科医が妊娠、出産などで離職した際、キャリアを伸ばすために再び就労するための支援策がそこまで整備されていません。時短勤務など就業形態の多様化などが今後の課題と言えます。
女性歯科医師を積極的に採用する歯科医院の特徴
では女性歯科医が再び歯科の世界で働くことは難しいのかというと、実はそうでもありません。この問題は、女性歯科医が再就職するため雇用側が復帰しやすい環境を整えているかどうかにかかっています。実際に、歯科医院独自のシステムを作り、仕事と家事、子育てを両立しやすい環境を整えることで、女性歯科医を採用する歯科医院は増えてきています。
女性歯科医を積極的に採用している歯科医院の特徴として、スタッフ数が多く、独自の支援やプログラムを掲げていることです。また法人化している歯科医院も、仕事と子育てを両立しやすい制度が整えられているところが多くあります。
いちばん多いのは、パートとして採用することです。フルタイムに比べると物足りなさは感じるものの、実際は子育てや家事に追われ、時間的融通がなかなかききません。この点パート勤務であれば、帰宅時間を気にすることなく仕事に集中し、診療時間が延びても気兼ねなく帰宅することができます。パート勤務という限られた時間内で集中して治療に打ち込めることで、充実感を得ることができる働き方は、仕事と家事育児を両立させたい女性歯科医にとってメリットがあります。
歯科医院独特の支援マニュアルなどもあります。ある歯科医院には女性スタッフが妊娠、出産後も安心して仕事復帰できるためのオリジナルプロジェクトが存在し、未婚スタッフと既婚スタッフが互いにカバーし合います。
既婚女性スタッフは、他のスタッフよりも30分早く出勤し、17時には退勤するというシステムです。その代わり休憩時間も短く、昼食もさっさと済ませなければなりません。逆に未婚女性スタッフは通常出勤し、休憩も90分しっかり取りますが、診療終了まで先に退勤した既婚女性スタッフたちの分をサポートします。
この方法は、院長の「歯科医院は女性スタッフで成り立つもの」という理念で考えられており、女性スタッフの声をしっかりと聞き、取り上げられています。女性スタッフが改善点や要望などの意見を出し合い、話し合うことで解決策を見出します。この歯科医院は、産休、育休制度も改良を重ねながら、女性スタッフが再び職場に戻りやすいシステムを作り上げた成功例です。女性歯科医師もパート勤務し、時間になると退勤することで後ろめたさがありません。
また、スタッフ数が多い歯科医院は急な休みにも対応しやすく、カバーが効きやすいメリットがあり、女性歯科医が急な休みのときも、院長や男性歯科医師がカバーします。このように、女性歯科医が働きやすい環境とは、女性同士、そして男性スタッフも理解し合い、サポートして助け合えることを意味するのです。
女性歯科医ならではの特徴を生かした働き方
女性の目線を生かした働き方というものが注目されています。男性には持ち合わせていないきめ細やかな目線をもった、小児歯科などは自らが母親目線になることができるため、小さな子供が嫌がらないような工夫をすることが期待できます。
特に妊婦歯科健診は、自らの妊娠中の経験から口腔内の様子、ケアの仕方、また生まれてくる赤ちゃんのために良い食べ物など、同じ同性として経験したことをアドバイスすることができます。そのため、妊婦にとってはこの上なく心強い存在となるでしょう。
そして小児だけでなく中高生の女子に関しては、男性歯科医よりも、女性歯科医のほうが安心して治療を受けることができます。男性歯科医に口の中を見られるのが気恥ずかしくても、女性歯科医であればすんなり口の中を見せてくれることが多いため、コミュニケーションも取りやすく、嫌がらずに歯科へ通ってくれることも期待できます。
そして高齢化社会が進んでいる現在、訪問診療のニーズが非常に高まっています。高齢者の自宅や、老人ホームなどのケアハウスが対象です。口腔ケア指導や入れ歯の調整など、大がかりでない治療を行う訪問診療は、ブランクのあった女性歯科医の活躍の場でもあります。
このように、女性歯科医はたくさんの活躍の場がありますが、まだまだ問題点はたくさんあります。女性歯科医が再び採用されるためには、再就職への難しさと女性が持つ大変さ、両立の難しさをもっと周知してもらう必要があります。
女性歯科医が自身のスキルを再び存分に発揮するために、必要な支援や制度を早急に整えることが望まれます。