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気になるアレコレまとめました!医師の為の歯科コラム
歯科コラム

女性歯科医師の多い医療機関でも油断禁物!労務トラブルを起こさないために

歯科医師の勤務先は約90%が歯科診療所となっています。歯科診療所あたりの歯科医師数の統計は渉猟しえませんでしたが、中には例外もあります。その大多数の歯科診療所が、非常勤も含めて1〜2人ほどのごく少数の歯科医師によって運営されているものと思われます。こうした歯科診療所では、就労規則を作製していないところも多いとみられ、歯科医師会も作製するよう勧めているのが現状です。

近年、歯科医師も女性歯科医が多くなってきたことに伴い、こうした小規模の歯科医院に勤務する例も増えてきました。女性歯科医の場合、男性歯科医と異なりいくつか留意しておかなければならない点があります。

たとえば、労働法規においては女性の保護規定が明記されていますし、体力や月経時期などには明確な男女差があります。

女性歯科医の数が増えれば、それにともない労務上のトラブルも増えてきます。そこで、女性歯科医が多くなったことにより起こりうる労務上のトラブルについて法律もあわせてまとめてみました。

多くなった女性歯科医

多くなった女性歯科医

厚生労働省は、2年おきに歯科医師数の分布状況を調査しています。年齢別、性別、勤務先別、専門別など、いろいろな条件にわけられ、その結果が公表されています。

その結果によりますと、日本では平成26年12月31日現在、医療施設に勤務している歯科医師数は103,972人。そのうち女性歯科医は23,428人と総数の22.5%の割合をしめています。

これは、前回の平成24年の調査では、21,392人(総数の21.4%)でしたので、比べて2,036人の増加です。また、前々回の平成22年では、20,555人(総数の20.8%)でしたので、人数、そして占める割合も年々増加していることがわかります。


歯科医師の募集に関わるトラブルについて

男性歯科医と女性歯科医の間に、募集段階で差を付けることは法律上認められません。
男女雇用機会均等法という法律があります。

第5条には「事業主は、労働者の募集及び採用について、その性別にかかわりなく均等な機会を与えなければならい」としています。

そして、厚生労働省は、募集の段階において、
①募集または採用に当たって、その対象から男女のいずれかを排除すること
②募集または採用にあたっての条件を男女で異なるものとすること
③採用選考において、能力及び資質の有無などを判断する場合に、その方法や基準について男女で異なる扱いをすること

を、事業主に対して禁止しています。

つまり、歯科医院側が歯科医師を募集する際に、女性であることを理由に募集を行なわないことは、法律に違反する行為となりうるのです。なお、平等に選考した結果、男性歯科医が選ばれることについては、問題ありません。

■女性歯科医の求人
歯科医院の増加により、他の歯科医院との差別化を図る目的や、女性の患者が女性歯科医による診察を希望するなど、歯科医師をめぐる環境も変わってきました。昨今では女性歯科医が勤務していることを売りにする歯科医院も増えてきているようです。


女性歯科医の妊娠と出産に関わるトラブルについて

女性歯科医の妊娠と出産に関わるトラブルについて

女性歯科医に限らず女性の妊娠と出産に関係する産休については、実は法律に定められています。歯科医院側は、こうした法規を理解した上で対応することが求められています。

■労働基準法
労働基準法では、産前産後の休暇、すなわち産休について定められています。
第65条に「使用者は6週間(多胎妊娠の場合は14週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した時にはそのものを就業させてはならない。」「使用者は産後8週間を経過しない女性を就業させてはならない。」とあります。

産前の休暇については、女性の請求によって与えられるものとなっています。すなわち本人が請求しなければ権利は発生しませんし、医院側も与える必要はありません。しかし、産後の休暇は本人の意思とは関係なく、強制的に取得させられますので、医院側は与えなければなりません。もし違反した場合は、6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金となる可能性があります。

なお、就業規則に産休についての記載がなくとも、取得することができます。

■労働基準法
労働基準法の第19条において、産前産後の休暇中とその後の30日間において、女性を解雇することもこの法律により禁止されています。

■育児・介護休業法
育児・介護休業法の第10条において、育児休暇を理由にした解雇はできないことが定められています。ですので、育児休暇が長期に及んでも復職を希望すれば、希望に応じる必要があります。

■男女雇用機会均等法
男女雇用機会均等法第12条において、保健指導又は健康診査をうけるための時間の確保として規定されています。以前は妊娠中および出産後の健康管理に関し、配慮と必要な時間を確保、およびそのための措置を講じることが、歯科医院側に義務づけられています。

具体的には、①健康診断などのために必要な時間を確保する。
      ②妊娠中の通勤について、調整緩和する。
      ③妊娠中の休憩時間に関する措置を講じる
      ④妊娠中および出産後における症状に対する措置 です。

このように、様々な法律で女性歯科医の健康は守られています。労務上のトラブルを避けるためにも、医院側はこうした法律に基づき、女性歯科医に対応することが求められます。

歯科医院側からの視点について

歯科医師に限らず女性にとって妊娠と出産は、大変喜ばしくおめでたいことです。ところが、院長以外に、勤務歯科医師が1〜2名程度の小規模な歯科医院の場合、女性歯科医が産休や育休に入ったときの補充するべき歯科医をどう募集するかという問題が生じます。

■休暇中に限った採用は難しい
女性歯科医の産休は少なくとも8週間、場合によってはそれ以上になりますが、産休後は本人が退職を希望しない限り、復職させなければなりません。この期間に限定し、他の勤務歯科医を募集し、採用するのは非常に困難です。なぜなら、産休に入った女性歯科医のスキルと同じか、それ以上の歯科医を採用しないことには、それまでの患者数の診療をこなすことができないからです。しかし、ベテランのフリーの歯科医師はそうそういません。

■休暇明けの女性歯科医のスキル
産休から育休を経て、長期間のブランクをもった女性歯科医の復職時のスキルに関しても、歯科医院側には不安がある場合があります。やはり、長期間診療業務から離れることにより、経験が断絶するわけですから、知識や技術面でも不安要素があることは否めないでしょう。

地域によっては、こうしたブランクのある女性歯科医のスキルアップを図るプログラムを組む大学病院などがある場合があります。もし、こうしたプログラムがお近で実施されているようでしたら受講するのもいいでしょう。


労働保険に関するトラブルについて

労働保険に関するトラブルについて

労働保険とは、労災保険と雇用保険の総称です。労災保険は、正式には労働者災害補償保険といい労働者災害補償保険法により、そして、雇用保険は雇用保険法により規定されています。

歯科医院が常勤で勤務歯科医を雇用する場合は、歯科医院にはそのどちらにも加入する義務があります。これも性別は関係ありません。もし、労災保険に加入していない場合、通勤途上や勤務中のケガに対し、保険の給付を受けることが出来ません。また、雇用保険に加入していない場合、失業した時に失業給付を受けることが出来ません。

こうした労務上のトラブルを防ぐためにも、歯科医院側は加入する様にし、もし加入していない場合は、勤務医側から促す様にしましょう。

年次有給休暇に関わるトラブルについて

年次有給休暇とは、いわゆる有給休暇のことです。この制度は労働基準法第39条により規定されています。給料を減額することなく、仕事を休むことが出来る制度です。

6ヶ月以上勤務した場合、法律上10労働日分の有給休暇が発生します。ただし、有効期限があり、発生から2年後には消失してしまいます。
歯科医院側は勤務歯科医からの有給休暇取得の希望があった場合、基本的には断れません。しかし、休暇の日を他の日に変更することは出来ます。


健康面からの労務上のトラブルについて

健康面からの労務上のトラブルについて

■貧血およびその他の健康障害
女性歯科医に限らず、女性に最もよくみられる健康問題の1つが、貧血です。若年者では、美容を目的とした食事制限に起因することが多く見られます。30〜40代では、子宮筋腫などの疾患が原因となっていることもあります。

その他の健康問題としては、運動不足、栄養面の偏り、便秘、冷え性、腰痛、生理不順、生理痛、更年期障害などが多く、こうした健康障害についても、理解と注意が必要とされます。

■母性の保護
女性歯科医は妊娠や出産、育児を経験していることも多いです。仕事・家事・育児が重なることによる過重な負担が原因となり、過労や流産などを起こすことがあります。女性歯科医の生活状況にも一定の配慮をしましょう。

■職場環境
職場環境に関係したことでは、間接喫煙による健康上の不安や不快感、冷房の効き過ぎによる体調不良、複雑な人間関係による精神衛生にも配慮が必要となります。


その他のトラブルについて

労働法律には規定されていないようですが、「患者の前で怒鳴る」「モノを投げつけてくる」「下ネタを頻発する」「身体を触ってくる」など、パワハラやセクハラに該当する様な行為は、法律に関係なく問題です。

相手が女性歯科医に限らずこうした発現や行為は、トラブルの原因となってきます。


まとめ

現在の日本は、歯科医師の数自体はとても増えてきましたが、大多数が開業という道を選ぶため、ベテランの勤務歯科医はあまり多くないのが実情です。確かに女性歯科医の産休や育休により、一時的に勤務医の数が減少することによる歯科医院の経営への影響は否定出来ません。一方で、休暇明けに復職してもらうことで、人材の確保は可能になります。なにより同じ女性歯科医が長期間にわたって勤務を続けているということは、他の勤務医を募集するにあたってのアピールポイントにもなります。
歯科医院側は、女性歯科医の妊娠や出産に配慮し、男性歯科医も含め法律に従った快適な職場環境を構築。さらに、勤務歯科医も法律を理解した上で勤務をすることで、よりよい関係を築き、労務上のトラブルを予防する様に努めましょう。


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