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歯科コラム

訪問診療では何を求められている?歯科が力を入れるべき嚥下障害への対策

近年高齢化が進み、訪問歯科診療の需要が高まっています。虫歯の治療や歯石除去、義歯の調整などの治療だけでなく、「食事が上手く飲み込めない」「むせやすい」といった嚥下障害を訴える患者やその予備軍の対策も重要となっています。また誤嚥性肺炎を防ぐ意味においても、歯科が大きな役目を担っていると言えます。

そこで、歯科医院が実施できる嚥下障害への対策をご紹介します。

嚥下障害への対策としてできる検査法

嚥下障害への対策としてできる検査法

いくつか方法はありますが、ここでは特別な装置を必要とせず、訪問先で簡単に行うことのできる口腔機能評価法をご紹介します。

■オーラルディアドコキネシス(oral diadochokinesis)の応用法
オーラルディアドコキアシスとは、口腔機能(特に口唇、舌)の巧緻性(咀嚼機能)および速度を評価する方法で、「パ」「タ」「カ」を、それぞれ10秒間に何回発声できるかを数えます。舌尖部の運動を確認するために「ラ」の発声も評価します。

60歳以上の健常者は1秒間4~6回以上ですが、嚥下障害の患者は素早く発声することが困難となり、口唇、舌、頬といった口腔器官の巧緻性の評価となります。検査の際、紙にペンで発声数を点で表記し後に集計しますが、近年は検査専用の計測機器やスマホアプリもあります。

■反復唾液嚥下テスト(RSST)
30秒間にカラ嚥下が何回できるかを数えます。口腔内の乾燥により嚥下運動が困難な場合は、水を1ml滴下し行うのも良いです。健常者は3回以上でき、2回以下であると嚥下機能が低下傾向であると考えられます。

■ブローイング
ペットボトルの中に水を入れて、ストローを水深5センチまで差し込みます。最大吸気後できるだけ長く吹き泡立たせることでその持続時間を計測し、健常者は10秒以上です。1回の嚥下で腰から上の筋肉を解剖学的に36通り機能させていると言われており、ブローイングは呼吸筋である腹筋、胸筋など、嚥下に導入される諸器官の総合評価になります。


歯科医院で行える対策法は何があるか

歯科医院で行える対策法は何があるか

訪問診療時に歯科医師または歯科衛生士が患者に行います。患者本人と家族などの介護者が、日常的に行うことができるよう指導します。状況に合わせて情報量を加減し、わかりやすく手順や図解のある資料を用意すると良いでしょう。

■器質的口腔ケア(口腔内の付着物を除去し、清潔を保つためのケア)
まず口腔内を水やジェルで十分保湿します。乾燥した状態で口腔ケアを行うと、汚れがこびりついて取り除くのに時間がかかるだけでなく、粘膜を傷つける場合があります。

歯ブラシが歯肉に触れても痛くないくらいの力で歯を磨きます。歯ブラシの硬さや形状は、口腔内の状態によって選びます。汚れたら水ですすぎ、繰り返します。歯磨剤は適宜使用し、歯間ブラシやデンタルフロスも使って清掃します。

湿らせたスポンジブラシで、口蓋・頬粘膜・顎堤・歯肉・舌などの粘膜の清掃をします。こまめにすすぎ、軽くしぼってを繰り返します。洗う用と湿らせる用のコップの水を用意しておくと、きれいなスポンジを繰り返し使うことができます。

乾燥してこびりついた食べかすや痰、痂皮は、保湿ジェルなどで十分ふやかしてから、スポンジブラシや口腔ケア用のウェットティッシュで取り除きます。粘膜は非常に傷つきやすい状態なので注意が必要です。

■機能的口腔ケア(口腔機能の回復、維持、向上のためのケア。口腔リハビリテーション)
唾液腺マッサージをすることで、口腔内の乾燥を軽減させ、嚥下障害の改善を誘導します。耳下腺・顎下腺・舌下腺のある顔回りを、指で軽く圧迫し優しく刺激します。口腔乾燥や疼痛があり、口腔内を触られることに拒否が強い患者への導入として、最初に行うことも有効です。必ず同意を得た上で声を掛けながら、暖かい手で行います。

慣れてきて口腔内も触れるようであれば、口腔内用マッサージジェルを指につけて口唇・頬粘膜の内側や歯肉のマッサージを行います。小唾液腺も刺激することによって、唾液の分泌を促します。   
     
■嚥下体操
ゆっくり行っても3分かかりません。食事前に行うほか、テレビを見ながら、お風呂に入りながら、気が付いた時に手軽にできます。図解しているサイトもあるのでプリントし、患者本人のみならず介護者にも楽しく継続できるよう、指導すると良いかと思います。

手順は次の通りです。

① リラックスして座った姿勢をとります。
② おなかに手を当てて、ゆっくり深呼吸します。
③ 首の体操として、ゆっくり後ろを振り返り、反対側も行います。次に左右に倒し、ゆっくり回します。
④ 肩の体操として、両手を頭上に挙げ、左右にゆっくりと下げます。次に肩をゆっくりと上げてからストンとおろし、前から後ろ、後ろから前へゆっくり回します。
⑤ 口の体操として、大きく開けたり、閉じて歯をしっかり噛み合わせたりを繰り返します。次に口をすぼめたり、横に引いたりします。
⑥ 頬の体操として、膨らませたり、すぼめたりします。
⑦ 舌の体操として、ベーと思い切り出し、喉の奥の方へ引きます。次に口の両端をなめ、鼻の下・顎の先を触るようにします。
⑧「パ」「タ」「カ」「ラ」と、ゆっくりはっきり繰り返し言います。
⑨お腹を押さえて、「エヘン」と咳ばらいをします。

■口すぼめ呼吸
ゆっくりと鼻から吸って口から吐く腹式呼吸をすることで、呼吸のコントロールを改善させ、嚥下に必要な筋肉を刺激します。また痰や誤嚥物の排出を促す訓練となり、嚥下障害の予防・改善に役立ちます。ロウソクの火を吹き消すように口をすぼめて息を吐くよう指導します。ゆっくり細く吐き出すことで、肺機能の強化と口唇の訓練にもなります。

また腹式呼吸は、副交感神経を働かせるので体温が上がり、免疫力のアップ、血行促進、便秘解消、精神の安定など、心身にもたらす良い影響が多数あります。

■ブローイング
検査法として挙げましたが、日常的に行うことで嚥下障害の機能訓練ともなります。しかし、ストローで水を吹くうちに誤って吸い込んでしまい、誤嚥することもありますので、注意が必要です。 


まとめ

患者やその家族などの介護者が、口腔ケアを日常的に行うことは容易なことではありません。しかし訪問診療の際に検査をし、効果が数値で表れると大きな励みとなります。

また術式の確認や道具の選定も、随時相談に応じ、共に嚥下障害に向き合うことが今、歯科に求められています。

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