歯科医師にとって最も大切なものは、当然「歯科治療の技術」でしょう。
勤務医時代には、歯科疾患の理論、治療法、機器について学ぶために、学会に参加したり、講習会を受講したりしていたかと思います。
確かに歯科治療の技術は大切なのですが、それだけでは上手くいかないのが開業の難しいところです。
歯科医院を開業するということは、歯科医師でありながら中小企業の社長になるということだからです。そのため、歯科医院を開業するにあたり必要となるスキルを紹介します。

■採用

どのような歯科衛生士、歯科助手を何人採用するのか、採用の条件をどうするのか、それぞれの役割分担を考えながら採用しなければなりません。
特にオープニングスタッフは、新しい歯科医院を0から一緒に作り上げるので、とても大切です。できることなら、価値観を共有できるスタッフを集めたいものです。
履歴書からでは伺いしれないところを知るためにも、面接のスキルは身につけたほうが良いでしょう。

■教育

『金を残すは三流、事業を残すは二流、人を残すは一流』という言葉があります。
スタッフを雇用するだけでなく、育成していかなければなりませんし、そのためには教育プランを作っておかなければなりません。
教育プランは、全体を底上げしていくのか、中心人物を育成してその人に引っ張ってもらうのか、座学を重視するのか、実技を重視するのか、いろいろな方法が考えられます。歯科医院にあった教育プランを作りましょう。

■評価

ただ働いてもらっているだけではいけません。働いているスタッフを適切に評価する必要があります。
自院に合った客観的で、公平な評価制度を作り上げる必要があります。そうでなければ、院長の主観や印象、つまりひいきで評価をしていると誤解を受ける恐れがあるからです。
誰にでも分かりやすく、明文化した評価制度を作っておく必要があるのは、そうした誤解を避けるためでもあるのです。
だからこそ、評価制度はなるべく早めに作り、公表するようにしましょう。

■スタッフ間の人間関係

歯科医院長以外は、歯科衛生士・歯科助手と女性ばかりの歯科医院がほとんどです。
そこで問題になるのが、スタッフ間の人間関係です。院長として深入りしすぎるのも良くありませんが、放置し過ぎてゴタゴタになっても困ります。
スタッフの人間関係に注意を払うだけでなく、何かあってもスタッフを守る姿勢を示し、ハラスメントが起こっても訴え易い環境を作り上げることが大切です。
スタッフが退職すると、また最初から採用と教育を行わなければなりません。スタッフが「ここで仕事を続けたい」と思える環境を作っていきましょう。

■経営計画

経営計画とは、歯科医院の将来を見据え、目標を達成するために策定する計画のことです。
そのためには、現在の問題点を洗い出したり、理念を再確認・再構築したり、将来像を具体化したりしなければなりません。
経営計画は、スタッフの採用、設備投資や銀行からの融資などに大きく関係します。経営計画を策定するだけでは意味がありません。いかにそれを実現するかが大切です。そして、歯科医院を計画通りに上手く運営するには、スタッフの協力が不可欠なのです。

経営計画のポイントを分かりやすく文章に表すことで、スタッフに理解してもらい、方針を共有できるようにしましょう。

■現金管理

生活保護や乳幼児・児童などを除いて、レジではお金の支払や出し入れ（現金の取扱い）が必須です。
人間のすることですから、どうしてもレジ金額に誤差が発生します。レジ金額を確認し、誤差が発生しにくいようにしなければなりません。
現金管理にシビアと思われるくらいでちょうどいいでしょう。そのうえで、少なくとも2回は預かり金やお釣りをチェックさせるくらいの指導をしましょう。

■税務管理

勤務医時代には、自分自身の年末調整と確定申告くらいしか税務に関係することはなかったことでしょう。
しかし、歯科医院の院長ともなれば、収入と支出の帳簿を付けてしっかりと管理し、必要経費の漏れがないようにするだけでなく、スタッフの源泉徴収まで税務管理が必要となります。
節税するためにも、経費の勘定はきちんとしておきたいものです。

■宣伝

宣伝は非常に大切です。宣伝の方法としては、看板、チラシ、ホームページ、パンフレットなど、いろいろな方法が考えられます。
単に名前を宣伝すれば良いわけではありません。患者が来院したくなるようなアピールをすることが大切です。つまり、宣伝のセンスが大切ということです。

■受付

勤務医時代には意識することのなかった受付業務ですが、患者が来院してまず目にするところなので、歯科医院の顔とも言えるでしょう。
受付の業務は、保険証の確認と診察券の発行、予約管理、会計、カルテの管理だけではありません。待合室の状態のチェック、電話の応対、患者以外の来客の応対など、とても多いです。
受付業務を受付スタッフに丸投げするのではなく、しっかりと関心を持つようにしましょう。

■患者のニーズを捉える

ともすれば、歯科医師は職人気質に陥りがちで、歯科治療を治療単体で考えてしまい、「歯科医療を含めた医療サービス」という視点を忘れがちです。
患者がどのようなことを望んで来院しているのか、患者目線で物事を考えなければなりません。
このために欠かせないのが、コミュニケーション能力です。この能力は、患者さんの訴えや考え方、ニーズを的確に拾い上げるためにも極めて重要です。

歯科医院の経営を成功させるには、歯科治療の技術はもちろんのこと、中小企業の社長としてのスキルも重要です。
必要なスキルは、大きくわけると人事に関するスキル、経営に関するスキル、マーケティングに関するスキルの3種類あります。
これらのスキルを身につけて、歯科医院の経営を成功させましょう。