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気になるアレコレまとめました!医師の為の歯科コラム
歯科コラム

勤務医なら歯科医院への就職者も考えるべき賠償責任保険への加入

この春国家試験に見事合格し無事研修医として働き始めた皆様、また、勤務医としてメキメキと実力をつけ沢山のお仕事を任せられているベテランの歯科医師の皆様、“医師賠償責任保険”には加入していますか?
「自分は訴えられないだろう」、「勤務先の保険があるから大丈夫」などの理由で、医師賠償責任保険に未加入の勤務医の方は依然多いです。
勤務医だからと言って本当に訴えられる事は無いのでしょうか?また、万が一訴えられたとして、本当に勤務先の保険で全てを補う事ができるのでしょうか?
今回はこの件について、実際の事例等も紹介しながら詳しく説明していきたいと思います。

医師賠償責任保険(医賠責)とは?

医師賠償責任保険(医賠責)とは?

医師賠償責任保険は、医療事故に関し、医師に過誤があり賠償責任が生じたとき、これを補償するための保険商品です。
医療訴訟の件数が年々増加し、医師・医療機関が支払いきれない高額の賠償金の支払命令を受けるケースも出ていることもあり、医師・医療機関にとって金銭的なリスクの回避が重要性を増してきています。
もちろん、これは歯科医師・歯科医院でも同様で、勤務医に向けた歯科医師の賠償責任保険もきちんと用意されています。

歯科における過去の医療過誤・医療事故の裁判事例は?

歯科における過去の医療過誤・医療事故の裁判事例は?

では、実際歯科医師が訴えられる事例にはどんなものがあるのでしょうか?
過去に実際に起こった訴訟問題で、歯科医師の過誤が認められたケースを取り上げてみたいと思います。

抜歯する必要がない歯を抜歯したと判断された事例
ある歯科医師が、右下奥歯の痛みを訴えて来院した患者に対し、右下奥歯の状態を目視し、従前の治療の経緯から判断して右下7番を分割抜歯。『右下奥歯を抜歯する』と漠然と説明したのみで、レントゲン写真も撮らず、触診による動揺も確認していなかったという。
被告歯科医院の開設者である担当歯科医師はこの患者から訴えられ、損害賠償請求が認容されている。

歯科治療の際タービンで患者の唇を傷つけてしまった事例
ある患者が歯科治療の際、タービンが患者の唇に当たり、長さ6㎜、深さ0.5~1㎜の傷害を生じ、4針縫合する傷を負った。その後、唇の傷跡は一筋の白い傷跡として残ったという。
患者は担当歯科医師に対し損害賠償請求訴訟を起こし、担当歯科医師の手技上の過失が認められた。
この事例の場合、歯科医院の経営者は担当歯科医師の妻であったが、経営者である妻は訴訟の対象にはなっていない。

歯列矯正の際、虫歯予防の指導を怠ったと認められた事例
A歯科医師とB歯科医師の二人の歯科医師が経営する医院にて、約1年の動的矯正治療後、約3年の固定式保定装置装着を行っていた患者が、保定装置除去後に上下切歯4本の裏側が虫歯のようになっていることを発見した。
別の歯科医を受診したところ、上顎の左右中切歯及び左右側切歯に隣接面に象牙質まで達する齲蝕を生じ、左上中切歯の一部は歯根膜炎を発症していることが判明。
患者は、A歯科医師及びB歯科医師に対し損害賠償請求訴訟を起こし、虫歯予防のためブラッシング指導することを怠ったとして歯科医師の責任が認められた。

ブリッジ補修治療の危険性・代替可能な治療の有無等について十分な説明をしていなかったと認められた事例
ある歯科医師が、右上5番の重度の虫歯と右上7番の欠損を認めた患者に対し、右上5番の抜髄治療(ばつずいちりょう)と、右上5番及び同6番を支台歯とする遊離端ブリッジ治療を行い、光重合レジンによる仮歯を装着した。後日、患者は仮歯の痛みを訴えて同医院にて仮歯の除去を受けた。
以後、患者は受診しなくなり、他の複数の歯科医院を受診。他の歯科医師の紹介を受けて受診した大学病院の歯科麻酔科において「カウザルギーの疑い」と診断され、それ以降神経ブロック療法及び投薬治療を受けた。
患者は、歯科医院を開設する法人及び担当歯科医師に対し損害賠償請求訴訟を起こし、説明義務違反に基づく自己決定権の侵害が認められた。

いかがでしょうか?いずれの事例も絶対に自分に起こらないとは言えないものだと思います。

勤務医が“共同被告”になる可能性は50%になっている!

勤務医が共同被告になる可能性は50%になっている!

歯科医師が訴えられ、損害賠償を請求されるケースを紹介しましたが、「訴えられるのはその病院を管理している医院長であって、勤務医は大丈夫」や「勤務してる病院が保険に入ってるから、それで何とかなるのでは?」と、考える方も多いでしょう。
実はそうは言っていられません。近年は勤務医も医療訴訟で訴えられるケースが増えています。

確かに、勤務医の過失は民法の「使用者責任」の規定で、事業主である医療機関側に賠償請求するのが一般的ですが、近年は勤務医も共同被告として訴訟に加えられるケースが急増しており、その確率は約50%(10年前の5倍)となっています。
実際に前述した訴訟例でも、開設者と共に担当歯科医師が訴えられているケースがいくつかありました。
この理由としては、以下の事が挙げられます。

1.医師個人の責任を追及して、真相を究明したいと考える患者・家族が増えてきている為
2.病院の経営状況の悪化により予定していた賠償金が受け取れないという事態を避ける為

2つ目について説明すると、通常病院は「病院賠償責任保険(病院賠責)」に加入しているため、仮に医賠責に未加入の勤務医が共同被告となっても、病院賠責で損害賠償分をカバーすることができます。

しかし、訴訟などの影響で患者が激減し、病院が経営破綻するケースも少なくありません。経営破綻した場合、病院賠責で保険金が支払われても原告側に優先権はなく、他の債権と同等に扱われるので、賠償金額の多くを受け取ることができなくなります。そうなると、原告側としては共同被告の医師から補償を得ようとするわけです。この際、医賠責に未加入の医師は当然自腹で支払うことになります。

さらに近年は、保険料の負担軽減のために病院賠責の補償金額を低く設定する開設者が増加しており、また要求される賠償金が高額な事例も出てきています。これらのケースにおいて賠償金額が最大補償額を上回ってしまう場合、病院の開設者と医師とでその差額を負担する必要も出てくるのです。

まとめ

「自分は訴えられないだろう」、「勤務先の保険があるから大丈夫」という考えで、勤務医が医賠責に加入しないのはリスクが高いということが分かっていただけたかと思います。こうした状況の中、医療機関や学会で勤務医の医賠責への加入を強く勧めるようになってきました。
研修医やアルバイトの方も含め医師賠償責任保険への加入がまだの方、保険への加入を検討してみてはいかがでしょうか?

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