歯科医師と歯科衛生士の業務範囲|安全な歯科治療のために
歯科衛生士法による歯科衛生士の業務範囲とは?
歯科医師がどこまでしなければならないか、歯科衛生士にどこまでまかせて良いのか、関連する法律とその実践における解釈をこの機会に再確認してみましょう。
歯科衛生士法の第二条に定められている歯科衛生士の業務は、次の通りです。
■歯牙露出面および正常な歯ぐきの有利塩化の付着物及び沈着物を機械的操作によって除去すること:スケーリングやPMTCが該当すると考えられます。
■歯牙及び口腔に対して薬物を塗布すること:フッ素塗布や佐保ライド塗布が該当すると考えられます。
■歯科診療の補助を行うこと:レントゲン撮影の補助やかぶせものの装着の補助などが含まれると考えられます。
■歯科衛生士の名称を用いて歯科保健指導を行うこと:学校や保健所、歯科医院におけるブラッシング指導などが含まれると考えられます。
以上の項目が定められており、すべての項目の前提として「歯科医師の直接の指導の下に」「歯牙及び口腔の疾患の予防処置として」行うこととなっています。
歯科衛生士法の規定からもわかるように、どの業務はして良く、どの業務はしてはならないのか、はっきりと項目ごとに決まっているわけではありません。とくに見分けが難しいのは診療補助業務で、さまざまな状況下で多岐にわたる業務が存在するため、法律の解釈が意見の相違を産みやすい分野です。
ではここで、そのキーポイントとなる歯科診療補助についてもう一歩分析を進めてみましょう。歯科衛生士の業務範囲となる診療補助はいったいどこまでなのでしょうか。
診療補助のボーダーラインはどこに?
この条文の中に登場する「歯科医師が行うのでなければ危害を生ずるおそれのある行為」という言葉に注目してください。これを「医行為」と言い換えることができます。医行為には二種類あり「絶対的医行為」と「相対的医行為」に分けることができます。この「相対的医行為」に該当する部分が、歯科衛生士の行える歯科診療補助にあたります。
絶対的医行為にあたる部分は、歯科医師の指導の下であっても、診療補助として行うことはできません。例えば、以下の行為は一般的に絶対的医行為とされています。
① 歯を削る行為(タービン、エンジン、手用切削器具を問わない)
② 観血的処置(抜歯、切開等)
③ 精密印象、咬合採得
④ 皮下注射や歯肉注射(ただし歯石除去目的の場合を除く)
そのほかの行為については、相対的医行為とみなすことができ「歯科医師の直接の指導の下に」行われる分には違法とはならないと考えられます。
ひとつ注意する必要があるのは、歯科診療時のX線撮影です。この業務については、医師や歯科医師以外では診療放射線技師でなければ行えないと定められています。つまり、歯科診療補助に該当するかどうか以前の問題で、診療放射線技師法に触れてしまうため、歯科衛生士が行うのは完全に違法となります。
相対的医行為をまかせる場合の判断ポイントとは?
しかし、日々の臨床における状況やドクターの指示監督の状況、個々の歯科衛生士のスキルやトレーニング状況などが異なれば、判断も異なってきます。そのため、上述の絶対的医行為とX線撮影を除いては、個々の行為単独での可否の規定を設けるなど厳密に線引きをすることで、医療の萎縮効果を招き、結果として十分な医療を提供できなくなる可能性があると考えられています。
そこで、一般に「グレーゾーン」と呼ばれる部分ができてくることになります。明確な指針がない部分に関し、個々に判別する必要のある範囲です。
グレーゾーンには2つの意味合いがあり、ひとつは当該行為が絶対的医行為か相対的医行為かという区別。もう一つは、相対的医行為ではあるが「歯科医師の直接の指導の下に」行われるものかどうかという区別です。
もちろん、歯科衛生士のスキルによっては、法的に問題ない仕事でも、行わせることが適切でない場合も多々あることでしょう。
そこで重要になってくるのが、歯科医師の監督・指導という責任です。歯科衛生士にトレーニングを施すこと、歯科衛生士のスキルを見極めて仕事を割り振ること、そして行わせている仕事の上質さと安全さを常に監督し、必要な指導を与えること。これらすべてが歯科医師の責任であり、患者様にとっては安心して治療を受けられる環境、歯科衛生士にとっては安心して仕事に打ち込める環境を作るのです。
まとめ
ドクターの皆様が、ご自分のチームを通して上質で安全な歯科治療を提供される一助となれば幸いです。