医院継承について 親の歯科医院は継ぐ?継がない?
歯科医師の家系に生まれた方にとって親、あるいは親族の歯科医院を継ぐべきか悩みの種であることでしょう。子供の頃から歯科医師を目指していて、親の歯科医院を継ぐ予定の方もいるかもしれません。今回はそんな医院継承メリット、デメリットについてご紹介していきます。
医院を継がずに新規開業をする場合には様々なコストが
新規開業をするにあたり多くのコストが掛かりますが、実際にどれくらいの費用がかかるのでしょうか。もちろん条件によって費用は異なりますので一例にはなりますが、ご紹介していきます。
まず内装やテナント、ユニット、広告費など設備投資資金として約3500万は必要といわれています。医院のコンセプトから内装にこだわりたいなどの要望があれば、さらに膨らむ可能性もあります。
上記に含まれる広告費ですが、初めて開業するにあたり、まずは、地域の方に知ってもらわなければ来院にも繋がりません。さらに忘れてはいけないのがホームページです。最近では大半の患者様が近くの歯科医院を探すのにインターネットで検索をします。無料のタウン案内のサイトに載せることも出来ますが、やはりオフィシャルサイトで院内の雰囲気や診療案内が分かった方が安心して頂けるものです。専門の制作会社に依頼すると50万円以上の費用が掛かる場合もあります。
さらに診療が軌道に乗るまでの運転資金も必要になります。診療報酬が入るのは診療を行った2か月後です。こうした事情もあり、数か月分の資金を手元に置いておく必要があります。1000万円程の資金が目安と言われています。
設備投資資金3500万円と運転資金1000万円を合わせて最低4500万円が新規開業で最低限必要と言われています。先代の歯科医院をそのまま継ぐことによって、こうした金銭的なコストを大きく削減できる点はメリットと言えるでしょう。
すでに集客出来ているデメリットも
歯科医院を継承することのメリットの一つに既に来院頂いている患者様がすでにいることがあげられます。新規で来院していただき、定期的に通ってもらえるようになるためには多くの時間や努力が必要になります。コンビニよりも多いといわれる歯科医院ですが、開業して患者様に頻繁に来ていただくには広告費や日々の診療など大きな労力がかかることは確実と言えるでしょう。すでに患者様が付いている歯科医院を継ぐことが出来れば、このようなコストを少なく出来ることから大きなメリットとなります。
しかしながら、このメリットがデメリットになることもあります。それは先代と治療方針や診療科目が異なる場合です。例えば、先代は保険診療をメインにやっていたが、二代目になりインプラントをはじめとした自由診療メインで診療をしていきたいというケースなどです。
以前と同じ感覚で来院いただいた患者様には一から説明し理解してもらうなど、違った意味でのコストがかかるかもしれません。
歯科の技術は日進月歩
先代の治療方針にもよりますが、歯科の技術は日々新しくなっていることから、診療方針や診療科目で相違が生じる場合もあります。例えば、以前は歯科大で歯科技工の技術を学ぶことも多く、ある程度の技工技術をもった歯科医師も多いものでした。最近ではこうした技術を持った歯科医師も減ってきています。
そして、メディアでも頻繁に取り上げられるオールセラミックの技工物もここ数年で急激に普及してきました。オールセラミックと一口に言っても、ジルコニアからe-max、ハイブリッドセラミックまで様々です。歯科医院の方針によっては、まだ歴史が浅いことからメタルボンドのみしかやらないという歯科医師もいます。
また、インターネットの普及で患者様自身のリテラシーも上がってきており、こうした患者様への対応もしていかなければならなくなってきています。
医院を継ぐ前に親の医院で一緒に勤める場合も多いかと思いますので、その際にある程度の擦り合わせは出来るかもしれません。
感覚的な技術は引き継げない場合も
もし仮に診療科目や治療方針が同じであったとしても、こだわりの強い患者様の場合には先代との技術的な違いを感じる方もいるかもしれません。
義歯の場合には、感覚的な調整技術は経験と比例することもあります。歯科大で専攻内容により、得意とする技術が異なることも考えられます。
とくに吸着の難しい下顎の総義歯では、患者様が感じているフィーリングがあるかもしれません。
不思議なことに歯科医院の患者層はある程度傾向が出てくるものです。難しい症例の治療を多く手掛けていると、口コミなどで広まり、複雑な治療を必要とする患者様が集まりやすくなります。経験が浅い歯科医師の場合、治療に苦労することも考えられます。
医院を継いだ場合には内装のリニューアルも1つの選択肢
開業してある程度の年月が経っている歯科医院の場合には、医院の増築も1つの選択肢です。診察室や待合室を拡張、改修することで院内の雰囲気も変わり、新たな患者様の呼び込みにもつながります。歯科医院の前を通って雰囲気が良さそうという理由で来院する患者様も多くいるのも事実です。診療科目が以前と変わるのであれば、それに合わせて内装も変えるのもいいかもしれません。例えば審美歯科を押し出したいのであれば、エステやカフェ風のデザインにするなどです。新たにテナントを借りて開業する費用に比べればコストを抑えられるため効果的です。
実際の費用はコンサルタントや先代の意見を尊重した上で決めることをおすすめします。
まとめ
親や親族の歯科医院を継ぐことは、大きなメリットがあります。近年は歯科医院の増加、そして人口の減少も伴い、診療を継続していける歯科医院も限られてきているのも事実です。新規開業には莫大な費用がかかり、多くの方は借り入れを含めて開業資金を用意することでしょう。このような費用を抑えることでリスクを減らして開業できる点はメリットです。その一方で診療方針が異なる場合などにはデメリットも存在します。親の経営する歯科医院の患者層、立地などを考慮して、引き継いでも問題なく診療を続けることが出来れば、医院継承は親と子、そして患者様にとってプラスになることでしょう。