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歯科コラム

歯科医のお仕事:警察歯科医の業務とやりがい

歯医者のなかでも、警察歯科医のやりがいや業務内容について詳しく知っている方は少ないのではないでしょうか。もしかしたら大学時代の同期に「警察歯科医になった」という方がいるかもしれませんが、仕事の性質上、あまり詳しい業務内容は明かさないはずです。

警察歯科医は悲惨な状態のご遺体に接する

警察歯科医は悲惨な状態のご遺体に接する

警察歯科医とは、身元不明のご遺体の身元を特定する歯科医のことです。
大規模な災害で多数の方が亡くなったり、殺人事件発生したときに、ご遺体が「誰なのか」を鑑定するわけです。

ただ身元不明のご遺体があったとしても、必ずしも警察歯科医が鑑定するわけではありません。ご遺体の顔を見た家族が本人と特定できれば警察歯科医が出動することはありません。そのほか、身体的特徴や指紋、DNA型、身分証明書などでも身元はわかります。

ということは、警察歯科医の出動が要請されるのは、いずれの方法でも「誰が誰だかわからない」ときです。
つまり警察歯科医は、過酷な現場に出向いたり、悲惨な状態のご遺体に接したりすることになるわけです。

例えば、2011年の東日本大震災では多く方が犠牲になり、その本人確認は難航しました。また行方不明から日が経ってしまうとご遺体の傷みが進み、もう歯型で確認するしかありません。
2001年のアメリカの同時多発テロ(9.11)では、歯科医たちが身元を割り出したご遺体は、身元が判明したご遺体の実に35%を占めました。


警察歯科医の業務

警察歯科医は、警察の依頼を受けて現場に行ったり、遺体安置所に行ったりします。身元不明のご遺体の歯型や歯の治療痕と、本人と思われる治療カルテを照合して、本人の確認を行います。
実際の業務の流れをみてみましょう。

ご遺体に接した警察歯科医はまず、口を開き歯の状態を目視します。その中で歯型や治療痕の特徴を確認します。
さらに携帯型のデジタルX線写真機を駆使して「歯の情報」を集めることもあります。
警察歯科医はこうして得られた情報をレポートにまとめます。そこには歯の情報だけでなく、推定年齢や性別、推定居住地なども含まれます。
そのレポートはご遺体の推定居住地の地域の歯科クリニックに配布して、該当する治療を行ったことがあるか確認します。
過去の患者さんに該当している人をみつけた歯科クリニックの院長は、治療カルテやレントゲン写真などを警察歯科医に提出します。
最後に再び警察歯科医がご遺体の情報と治療カルテと照合し、本人であることを鑑定するのです。
国内の1年間の身元不明遺体は1,000人に及びます。


歯から性別、年齢が推定できる

歯から性別、年齢が推定できる

歯には「人の情報」も多く含まれていて、歯の劣化やすり減り方から大体の年齢がわかるほか、さらに歯や顎の大きさから男女が推定できます。
また歯科医は自分が治療した患者さんの歯のことはかなり詳しく覚えているものなので、ご遺体の歯に関するレポートを見れば「もしかしたら」と思い出すのだそうです。
事件に巻き込まれたご遺体の場合、歯以外の証拠は犯人が消し去っているかもしれません。となると、歯からわかったことが、捜査の出発点になるかもしれないのです。


警察歯科医の歴史

警察歯科医の制度が発足したのは意外に新しく1986年です。警察庁が日本歯科医師会に警察歯科医の組織化を要請し、発足しました。現在は全国に警察歯科組織があります。

その1986年は、国内最大規模の飛行機事故、日航機墜落事故の翌年です。この事故が警察歯科医発足のきっかけとなりました。この事故では歯科医たちも懸命に亡くなった方の身元確認を行い、その功績が評価されたのです。


警察歯科医になるには

警察歯科医になることができるのは、歯科医師免許を持った歯科医師だけです。歯科医が専門研修を受けて、警察歯科医になります。

警察歯科医の仕事は、当然ながら「歯だけ」を見ればよいというわけにはいきません。そのため警察歯科医になってからも、定期的に開催される研修会に参加して研鑽を積む必要があります。
警察歯科医は研修会で、警察官や医科の警察医たちと一緒に「法医学」などを学びます。またわずかに残された人の骨から生前の様子を推定する知識と技術も習得します。

警察歯科医は海上保安庁と連携することもあります。それは、水死体は傷みの進行が早く、さらに海の場合は潮の流れによって身につけていたものがなくなりやすいからです。海上保安官が保護するご遺体は「あとは警察歯科医に鑑定してもらうしかない」という状態が多いのです。


警察歯科医の活躍ぶり

警察歯科医の活躍ぶり

1985年の日航機墜落事故の犠牲者は520人だったのですが、身元が判別できない「ご遺体片」は2,065体にもなりました。これではご遺族が悼むこともできません。
このとき歯科医たちがご遺体片のなかの歯を丁寧に分析し、身元を特定していったのです。

その10年後の1995年の阪神淡路大震災では、兵庫県警察歯科医会を中心に結成したチームが24時間体制でご遺体の確認に当たりました。
参加した警察歯科医はのべ159名にのぼり、68名の身元を特定しました。

そして2011年の東日本大震災では、延べ2,599人の警察歯科医と一般歯科医が身元確認に当たりました。地震発生から数日間で、1,000名以上の歯科医が協力を申し出ました。
警察歯科医・一般歯科医たちが身元を特定したご遺体は8,750人になりました。


まとめ~過酷だが歯科医にしかできないやりがいのある仕事

歯は硬く、さらに顎の骨に守られているため、なかなか滅失しません。そのため「その人の証拠」が最後まで残る部位でもあります。
それを見極めることができるのは、警察歯科医しかいません。ご遺体の「最期の声」を読み取ってあげることができる、やりがいのある仕事といえるでしょう。


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