歯周病で認知症が悪化する。歯周病は早期治療がオススメ
認知症には、いろいろなタイプがあり、タイプによって原因や症状が異なりますが、その中のひとつにアルツハイマー型認知症があります。
近年のアルツハイマー型認知症の研究により、この認知症が歯周病に関連していることが明らかになりました。
高齢者の歯周病治療によって認知症が改善できる可能性があるなら、本人や家族が歯医者を受診するきっかけにもなります。今回は歯周病と認知症について詳しく見ていきましょう。
認知症の概要
認知症とは、後天的な脳の基質的障害によって、本来正常であった知能が低下をきたした状態のことです。認知症は、原因から血管性認知症、変性性認知症、感染性認知症の3つに分類することが出来ますが、アルツハイマー型認知症は、このうちの変性性認知症に該当します。
アルツハイマー型認知症
初老期から老年期にかけて発症する認知症のうちで最も多いタイプで、若年期に発症するのは極めて稀です。
その症状は、極めて緩徐に進行します。初期症状は健忘から始まります。記憶障害を中心に見当識障害がおこり、思考や判断力が失われ、失語、失認などの高次脳機能障害が現れるようになります。
感情や意欲の障害、幻覚や妄想などに代表される心理的症状、徘徊などの異常行動、攻撃傾向などを認めます。
アルツハイマー型認知症の治療は、薬物治療が主に行なわれます。
軽等度から中等度のアルツハイマー型認知症では、コリンエステラーゼ阻害薬の治療が効果的です。ドネペジル(アリセプト(R))、ガランタミン(レミニール(R))、リバスチグミン(リバスタッチ(R)、イクセロン(R))の有用性の高さが示されています。
高度のアルツハイマー型認知症においても、ドネペジル(アリセプト(R))による改善効果が報告されています。
薬物治療以外の治療法では、脳を刺激することを目的に運動療法や音楽療法、絵画療法などが行なわれています。
歯周病と認知症の関係性
歯周病が認知症を悪化させるプロセスを、国立長寿医療研究センターや名古屋市立大学などの研究チームが解明しました。
まず、歯周病に感染することで、歯周病菌がエンドドキシンという内毒素を産生します。その内毒素は血流にのって全身を巡り、脳にも届いてしまいます。
すると、脳の中で炎症性反応がおこり、炎症性サイトカインが増加します。サイトカインの増加は、アミロイドβとよばれるタンパク質の産生量の増加を引き起こします。
増加したアミロイドβが脳に沈着することで、脳の神経細胞が徐々に破壊され、認識能力や学習能力が低下すると考えられています。
マウスを用いた実験では、歯周病菌に感染したマウスの脳で、記憶を司る海馬のなかでアミロイドβの量が1.4倍に増加しており、記憶学習能力も低下していました。
人間を対象とした介入試験は、まだ継続中で結論は得られていませんが、現在、歯周病治療や口腔ケアを行なうことで、認知症が改善するかどうかが調べられています。
認知症への歯周病治療効果について
歯周病は、歯周組織に生じる疾患で、歯肉炎と歯周炎にわけることができます。歯肉炎とは歯肉にだけ炎症が起こった病態、歯周炎は歯肉以外の歯槽骨などの歯周組織に炎症が拡大した病態です。いいかえるなら、歯肉炎は歯周病の初期段階といえます。
歯周病は、歯周病菌の産生する内毒素によって、歯周組織が炎症反応を示し、歯肉や歯槽骨などを障害し、やがて歯槽骨が吸収されていきます。
現状では、一度吸収された歯槽骨を回復させるのは非常に困難です。歯の健康を守るためには、できるなら歯肉炎という歯周病の初期段階で治療に取りかかることで、歯肉炎に進行するのを抑えたいものです。
歯周病治療と認知症改善
アルツハイマー型認知症において、歯周病菌の産生する内毒素が脳の認識能力や学習能力の低下に関連していることが明らかになりました。
現在、アルツハイマー型認知症には、コリンエステラーゼ阻害薬を中心とした薬物治療が主に行なわれています。歯周病治療は、アルツハイマー型認知症の新しい治療法として、有用を示せる可能性があります。
それは、歯周病治療が、歯周病の原因である歯周病菌の活動性を低下させるからです。歯周病菌の活動が低下すると、歯周病菌が産生していた内毒素の量も減少します。
マウスの実験から明らかになったように、この内毒素がアルツハイマー型認知症に関係していますから、その産生量を減らすことが出来れば、認知症の悪化を防ぐことが出来るはずですし、認識能力や学習能力を改善させることもできるかもしれません。
歯周病治療には、歯やお口の健康のみならず、認知症を改善させる可能性があるのです。
まとめ
歯周病がアルツハイマー型認知症と関係していることが、マウスを使った実験で明らかにされました。
しかも歯周病は、認知症以外にも、糖尿病や心疾患、肺炎、慢性腎臓病などいろいろな病気を引き起こすことも知られています。したがって歯周病は、単に歯やお口の健康に関連した病気ではなく、万病のもとともいえる病気といえます。
しかし、こうした歯周病のもつ危険性はあまり知られていないのが現状です。
歯科医師は、従来通りに単に歯周病を治療するのではなく、こうした危険性をはらんだ病気であるという視点で歯周病に接し、社会に対してはもっと啓発していかなければならないでしょう。
そして、今後更なる増加が危惧されるアルツハイマー型認知症を減らすためにも、若いうちからの歯周病治療を行い、歯やお口の状態を健康に保つことのベネフィットを歯科医師は積極的にアピールしていく必要があると考えます。