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歯科コラム

むし歯があるとなれない職業とは?口腔環境と仕事の意外な関係

日本国憲法では、我が国に居住する国民に義務を課すだけでなく、自由や権利も保障しています。その中のひとつに”職業選択の自由”があります。つまり、わたしたちは、誰でも希望する職業に就く権利と自由を持っているのです。

しかし、その職業に就きたくても、条件や健康上の理由等により、就くことが出来ないものもあります。そうした健康上の就業できないとされる条件には、実は”むし歯があるとなれない”という条件もあるのです。むし歯があるとなれない職業となんでしょうか?そんな豆知識についてまとめてみました。

むし歯があるとなれない職業がうまれる理由

むし歯があるとなれない職業がうまれる理由

現在大多数の日本人が住んでいる土地の大気圧は、ほぼ1気圧です。そのために、身体にかかってくる1気圧に相当する空気の重さに耐えるため、身体の内部も1気圧で外向きに力をかけています。

むし歯になったことの無い歯や歯周組織の内部は、緊密で隙間はありません。しかし、むし歯に罹患しますとそうではなくなります。
たとえば、抜髄した後の根充に際して、根充剤に隙間が生じればそこには1気圧分の空気が存在します。根尖病巣が生じた場合も、1気圧の病巣となります。歯根嚢胞も同様です。

地上で生活する上では、たとえ上記の状態であっても急性化しない限り問題とはならないことでも、ある環境ではそうではなくなります。

その環境とは、航空機が飛行している高空、そして海中深い深海です。
気圧は、高度に比例して下がってきます。海中深く潜れば逆に水圧が上がってきます。それにつれて、水圧の負荷に耐えるため潜水艦や潜水服の内部の気圧もまた高まります。

ところが、根尖病巣や歯根嚢胞自体は1気圧のままですので、病巣の内圧が高まり、周囲の組織を圧迫するようになり、痛みが生じるのです。歯根の内部の気泡が膨張し、歯根が破折することもあります。

気圧の変化が身体に影響を及ぼすのは、たとえば車両や列車がトンネルに入った時に耳鳴りがすることがありますが、そこからも理解してもらえるでしょう。耳鳴り程度の軽い痛みならいいのですが、激痛の場合、判断に一瞬のミスが生じ、命に関わることがあります。

そして、減圧に伴う歯の痛みは、時として非常に激しいことが知られています。
したがって、むし歯があることで、就業が制限されてしまう職業が生まれてくるわけです。


むし歯があるとなれない職業について

むし歯があるとなれない職業についてて

■航空機のパイロット
先の大戦以降に作られた航空機は、ジェット化され飛行高度が高度になったため、基本的に与圧されています。これは軍用機、旅客機を問いません。

ところが、特に戦闘機の場合に多いのですが、敵機との交戦の際に、左右への急転回だけでなく、急激に高度を上げたり下げたりするような飛行を行います。このとき、気圧の急な変化が生じます。戦闘機のパイロットの訓練では、耳の空気抜きの練習が必要とされるほど、身体に気圧の変化が加わります。

また、戦闘機以外の爆撃機や輸送機、哨戒機といった軍用機でも敵の攻撃を受けて、被弾する可能性があります。被弾し、機体が破損した場合、急激に減圧が起こり、非常に危険です。そのために、機内の気圧は1気圧ではなく、少し低めの0.7気圧ほどになっています。

このように、軍用機のパイロットは、その任務上、急激な気圧の変化に見舞われる可能性が高いので、むし歯があると選考基準から外されてしまいます。

一方、民間のジェット旅客機は、軍用機ほどに気圧の変化に曝される可能性は少ないですが、高度30000フィートもの高空を巡航飛行しています。高空を飛行する方が、空気の密度が低いので抵抗が少なくてすむので燃費が節約出来、経済効率が良いためです。

そんな高度では、機外の空気はとても薄いのですが、機内は与圧してあります。しかし、地上と同じ気圧にすることは、機体の内外の圧力差が著しくなり、機体寿命に影響を及ぼしてくるのでなされていません。実際は、0.8気圧ほどに与圧される程度に留まっています。

乗客として搭乗すれば経験出来ますが、この程度の気圧であれば、さほど空気の薄さを意識することはありません。

軍用の航空機と異なり基本的に急速な減圧の可能性は多くありません。それでも、旅客機のパイロットの場合もまた、急な痛みによる判断ミスの可能性を減らすため、軍用機ほどではありませんが、むし歯による制限があります。

■宇宙飛行士
現在、軌道を周回している国際宇宙ステーション(ISS)の内部は、地上と同じく1気圧に与圧してあります。しかし、宇宙飛行士が宇宙空間で活動するために着用する宇宙服はそうではありません。0.3〜0.4気圧程度しか与圧されていません。

ですので、船外作業中に歯の痛みを引き起こす可能性が生まれます。急な痛みによって一瞬の判断を間違えてしまうかもしれません。宇宙空間での判断ミスは、直ちに死に繋がる恐ろしい事態です。

また、ISSにおいては、数週間におよぶ生活をしつつ、各種実験などを行ないますが、当然のことながら、歯科診察室や歯科医師は常駐していません。むし歯の痛みが生じても、痛み止めを飲むくらいにしか、対応が出来ません。したがって、船外活動をしない1気圧のISS内部だけで仕事をする場合であっても、むし歯の存在が問題となるのです。

■潜水士
海上自衛隊や海上保安庁には、潜水業務を行なっている部署があります。潜水士は、航空機と異なり圧力の高い環境において作業をします。こうした環境では、潜水服の内部を加圧して、水圧に抗するようになっています。加圧している間はいいのですが、浮上する時に減圧していきます。この時、歯が痛くなることがあるのです。

また、急激な減圧は潜函病を引き起こすことが知られていますので、浮上後減圧室でしばらく生活しなければならないこともあります。このときに、むし歯の痛みが生じたとしても、どうすることもできません。

そのため、航空機とは逆に気圧の高くなる環境である潜水士もまた、むし歯による制限を受ける職業なのです。


その他のむし歯が影響してくる職業について

むし歯があるとなれない職業についての豆知識を前述しましたが、それ以外にも、気をつけておいた方がいい職業があります。

■自衛官
海上自衛官は、遠洋航海や国際協力任務で、数ヶ月間に及び洋上での任務に就くことがあります。この時は、歯科医官が護衛艦や練習艦に配置されるようですが、艦内で出来る治療には限界がありますし、狭く揺れる環境は治療しやすいとも言えません。

また、潜水艦の乗員は、一度出航すると数週間にわたり母港に帰ることはありません。潜水艦の性格上、単艦で海中深く潜航して任務に当たりますが、歯科医官は潜水艦に配属されていませんし、潜水艦にはその設備すらもありません。任務中のむし歯の痛みは、鎮痛剤で対応するほかありません。

また、陸上自衛官も、PKOなど国際協力任務で発展途上国に数ヶ月間派遣されることがあります。一応、駐屯地に診療所は設営されていますが、そこで受けられる治療にはやはり限界があり、日本国内と同様であるとは言えません。

仮に、長期任務に当たる自衛官がむし歯から蜂窩織炎を起こすと、後送しなければならないこともあります。長期任務に当たる前にはあらかじめ歯を含めて健康診断を受けます。


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