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気になるアレコレまとめました!医師の為の歯科コラム
歯科コラム

歯科治療後に市販の鎮痛薬を飲んではいけない理由

歯科治療は、基本的に外科治療のひとつです。歯科治療では、局所麻酔下で、う蝕処置、麻酔抜髄、抜歯などさまざまな処置が行なわれます。
局所麻酔が奏効している間は痛みがなくても、麻酔の効果がきれた後、痛みが生じることがあります。
通常は、麻酔がさめた後は消炎鎮痛薬を処方します。多くの場合、歯科では非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)とよばれる消炎鎮痛薬が選択されます。
NSAIDsは、処方箋が必要な医療用医薬品だけではなく、一般用医薬品でも販売されていいます。
仕事や学校などのために通院しにくいなどの理由で、市販の鎮痛薬を頼って痛みをとるのは大丈夫なのでしょうか。

う蝕処置後の痛み

う蝕処置後の痛み

コンポジットレジンやインレーなど修復治療後に痛みが生じる場合があります。
修復治療による刺激が炎症を起こし、痛みが出ている場合は、経過観察で治ってきますが、そうでない場合は、たいていは歯髄炎を起こしています。

抜髄後の痛み

う蝕が進行し、歯髄炎に至った場合、麻酔抜髄の適応となります。
局所麻酔のもと、リーマーやファイル、クレンザーなどを用いて歯髄を除去します。
EMRやリーマーを入れたレントゲン写真で確認しても、歯髄炎の痛みが解消しない時があります。
この場合、残髄が疑われます。
主根管の残髄であれば、見つかっていない、たとえば4根管目の歯髄の存在や、そうでない場合は側枝の残髄が考えられます。

抜歯後の痛み

歯科医院で抜歯を受けた後に痛みが生じるのはどうしてでしょうか。

■炎症反応
炎症とは、生体組織になんらかの器質的変化をもたらす侵襲に対して生体がホメオスターシスを維持するために起こる反応性変化のことです。
器質的変化を与える原因としては、代表的なものが細菌感染やウィルス感染などの微生物感染です。それ以外にも外傷などの物理的な刺激や薬品などによる化学的刺激もあります。抜歯などの手術を受けたことによっても炎症は起こります。抜歯を受けたことにより炎症反応が生じておこる痛みは、正常な痛みと考えられます。

■炎症反応による痛みの発生過程
炎症反応は、第一期・第二期・第三期にわけられます。
局所にたいして傷害が起こり、炎症が開始するのが第一期です。抜歯で言えば、抜歯を受けたという傷害が契機になるわけです。
傷害が与えられてから数分以内に血管の内皮細胞の変化や血管の拡張、血管の透過性の亢進が開始します。腫れてくるのは、血管が拡張し、血管の透過性の亢進により血漿成分が血管外に滲出するからです。
このとき、ヒスタミンやセロトニンなどさまざまな化学物質が放出されます。このなかにプロスタグランジンがあります。プロスタグランジンは発痛物質としても知られている化学物質です。炎症に伴って痛みが生じるのは、このためです。
したがって、抜歯後の痛みは、炎症の第一期から開始することがわかります。
なお、白血球が血管外を遊送したり、血小板が止血を開始したりするのは、この後の炎症の第二期です。

抜歯後治癒不全

抜歯後の痛みがとれずに継続してしまう、もしくは痛みが強くなってくるのはどのような原因によるのでしょうか。

■抜歯後の治癒の過程
まず、正常な抜歯後の治癒について理解しましょう。
抜歯後の治癒は第一段階から第四段階までの4段階に分類することが出来ます。
第一段階は血餅の形成期、第二段階は肉芽組織の形成期、第三段階は結合組織の形成期、第四段階は骨稜の形成期です。

それぞれの日数は、第一段階が1病日、第二段階が2から7病日、第三段階が8から20病日、第四段階が21から38病日です。
この経過通りに進まなければ、抜歯後の治癒が異常経過していると考えられます。たとえば、抜歯してから8日経過しても肉芽が形成されていない場合、21日経過しても肉芽が脆弱で剥離しやすい場合などです。

■抜歯後治癒不全について
抜歯後治癒不全とは、いわゆるドライソケットのことです。ドライは乾燥、ソケットは抜歯窩、つまり抜歯窩が血餅や肉芽組織で満たされず、骨が露出した状態になっている病態です。
抜歯後の偶発症のひとつで、きわめて治りにくい難治性の痛みを伴います。
臨床症状としては、視診上、抜歯窩に血餅や肉芽組織の形成が認められず、歯槽骨壁が露出しています。疼痛所見は、自発痛や接触痛が著しいです。
病理学的には、歯槽骨の緻密化や感染などの関与が指摘されています。
抜歯後治癒不全を起こしても、一般的には10日程度で自然治癒するものが多いです。この場合は、単なる歯槽骨炎です。しかし、そうでない場合は、壊死性浸出性骨炎に移行している可能性が考えられます。
ドライソケットの最初の報告は1896年に行なわれたものといわれています。この報告例では、抜歯後12ヶ月にわたって骨露出が継続したとされています。適切な処置を行なわないと、これほどの長期にわたって症状が持続する可能性があることが示されています。

一般用医薬品とは

一般用医薬品とは

一般用医薬品は、病院で処方される薬と比べてどのような違いがあるのでしょうか。

■一般用医薬品とは
一般用医薬品とは、薬局やドラッグストア、スーパーの医薬品売り場など薬剤師が常駐している薬店で販売されている医薬品のことです。
一般用医薬品とは、法律上の名称です。わかりやすい名称として、以前は大衆薬や市販薬ともよばれていました。現在は、Over The Counter(お店のカウンター越しに購入出来るという意味)の略でOTC医薬品ともよばれるようになりましたが、意味するところは同じです。

■一般用医薬品の分類
一般用医薬品は、第一類・第二類・第三類と3種類に分類されています。
第一類医薬品は、薬局やドラッグストアで購入出来ますが、薬剤師でなければ販売出来ない医薬品です。なお、第二類や第三類医薬品にはこのような制限はありません。

■歯の鎮痛薬としても使える薬
一般用医薬品にも歯が痛い時に鎮痛薬として使えるものがあります。一般用医薬品としても、痛い時に利用出来るのは医療用医薬品と同じくNSAIDsです。
以前は、一般用医薬品のNSAIDsといえばアセトアミノフェン系NSAIDsが主でしたが、プロピオン酸系NSAIDsも発売されるようになりました。プロピオン酸系NSAIDsとは、いわゆるロキソニン®です。
一般用医薬品のプロピオン酸系NSAIDsとしては、ロキソニンS®、ロキソニンSプラス®、ロキソプロフェン錠クニヒロ®などがあります。そのどれもが第一類医薬品に指定されています。
これらの薬は、従来のアセトアミノフェン系NSAIDsと比べて、鎮痛効果が高いという特徴があります。

■一般用医薬品と医療用医薬品との違い
一般用医薬品のプロピオン酸系NSAIDsと、医療用医薬品のそれを比較した場合、有効成分や錠形サイズには、ほとんど違いがありません。したがって、抜歯後の鎮痛効果に関しては差がないことになります。
では両者にはどのようなちがいがあるのでしょうか。
それは、使用方法です。
医療用医薬品は、痛い時に使う頓用以外に『ロキソニン(60)3錠 分3 3日分』といったように毎食後の服用が認められています。しかし、一般用医薬品では、頓用の場合でのみ内服することが認められています。

NSAIDsの副作用

NSAIDsには、副作用もあります。
代表的な副作用は胃腸障害です。NSAIDs処方時に胃腸薬を併用するのはこのためです。次いで重要な副作用が腎障害で、浮腫や高血圧症を引き起こすこともあります。
また、アスピリンの場合は、出血傾向も問題となります。
アスピリンといえば、アスピリン喘息とよばれる喘息発作の副作用もありますが、アスピリン喘息はアスピリンに限った話ではありません。NSAIDsであればどの薬でも起こりえる副作用です。

持続する痛みに対して・・・

歯科治療後に痛みが継続する場合、どのような対応が適切なのでしょうか。
う蝕処置後の痛みに対しては、麻酔抜髄を行ないます。違和感程度であっても、いずれは歯髄が壊死し、感染根管となってしまいます。
抜髄後の痛みには、残された根管がないかどうかを調べたり、側枝の残髄を疑う場合は、ペリオドンなどの根管貼薬にて除痛を図ります。
また、抜歯後治癒不全の痛みに対しては、そのままでは自然に治癒することは稀なので、抗菌薬配合ガーゼを挿入したりして、創部を保護して自然治癒に導きます。愛護的な処置では改善しにくい場合は、抜歯窩の再掻爬が検討されます。

まとめ

歯科治療後に痛みが継続的に認められる時、鎮痛薬、特に一般用医薬品の鎮痛薬にのみ頼って痛みをコントロールするのは、勧められることではありません。市販の鎮痛薬であっても副作用がないわけではないからです。また、既往歴やアレルギー歴からその鎮痛薬が、適していない場合もあります。アレルギー反応のある鎮痛薬を誤って服用することは、ショックを引き起こす危険性があります。

市販の鎮痛薬は安易に飲まないほうがいいでしょう。そして、痛みの原因を追及し、原因に対して適切な処置を行なうことを第一とするべきです。
当院の方針としても、市販の鎮痛薬に頼るのではなく、適切な処置を行ない、速やかな除痛を図るべきと考えています。
治療後の説明として、痛みが続くようであれば、市販の痛み止めで痛みをコントロールするのではなく、当院に来院するか、来院が難しいなら電話連絡をするように説明するようにしてください。

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