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気になるアレコレまとめました!医師の為の歯科コラム
歯科コラム

女性医師が口腔ケアを患者へすすめる際に気をつけていること

口腔ケアは口腔衛生状態や口腔機能の保持・改善をはかることで、「おいしく食べて、楽しく話す」ことによるQOLの向上に寄与します。実際に口腔ケアをすすめる際に気をつけるべき点についてお話させていただきます。

口腔ケアとは

口腔ケアとは

口腔ケアは、口腔の疾病予防、健康保持・増進、リハビリテーションによりQOLの向上を目標としています。

具体的には、検診、口腔清掃、義歯の着脱と手入れ、咀嚼・摂食・嚥下のリハビリ、歯肉・頬部のマッサージ、食事の介護、口臭の除去、口腔乾燥予防などがあります。病院や施設、在宅療養される方々の口腔環境を整えることは、おいしく食べられるだけではありません。コミュニケーションの円滑化、誤嚥性肺炎の予防などの効果があり、QOLの向上に大きく寄与すると思われます。それらの基礎となるものが口腔ケアです。

口腔ケアが対象となる患者

口腔ケアが必要な患者様はさまざまであり、まず患者様の状況を把握することが必要です。

・がん患者の周術期口腔機能管理としての口腔ケア
がん患者の周術期口腔機能管理としての口腔ケア

がん治療の現場では、がん患者の口腔環境の悪化に関連した様々な合併症による治療完遂率の低下や入院期間の延長、QOL低下などが問題視されています。平成24年4月の診療報酬改定により、がん患者等の周術期における歯科医師の包括的な口腔機能の管理等が評価され、周術期口腔機能管理料、周術期専門的口腔衛生処置などが新規収載されました。

がん患者では放射線・抗がん剤により口腔粘膜炎をはじめ、口腔乾燥症や味覚異常、顎骨骨髄炎など多彩な有害事象が生じます。またがん治療では様々な合併症により出血傾向や易感染性により全身的評価や疾患特異的な配慮が必要です。

・嚥下障害を有する患者の口腔ケア
嚥下障害を有する患者の口腔ケア

顎口腔領域のがん摘出における切除、脳血管疾患や神経障害により嚥下障害が生じます。摂食・嚥下障害のある人がもっとも起こしやすい合併症は、誤嚥性肺炎です。口腔衛生状態不良あるいは胃瘻や中心静脈栄養の患者様は、自浄作用が低下し口腔内細菌が増殖し、誤嚥性肺炎発症のリスクが高くなっています。

このため、摂食・嚥下障害のある人の口腔ケアは、その障害を軽減させるリハビリ的な要素を併せ持ったものが望ましいと言えます。口腔ケアをしながら感染予防だけでなく、唇、舌、鼻腔等の運動機能の強化をはかる必要があるのです。

・介護予防としての口腔ケア

2006年4月に介護保険制度が見直されました。口腔ケアは自立高齢者が要介護状態になることを防ぎ、要介護高齢者がそれ以上に状態を悪化させない効果があることが認められ、介護予防サービスのひとつとして「口腔機能の向上」が導入されました。

・「おいしく食べて、楽しく話す」
「おいしく食べて、楽しく話す」

口腔機能を維持することは、健康とともに、人や社会と活発に交流し、心身ともに自立した生活を送るために欠かせない要素です。また口腔機能の向上によって、食事の面からは栄養改善を通じて筋力の向上、会話の面からは社会交流を通じて閉じこもりやうつ予防に繋がることが期待できます。口腔機能が低下すると栄養状態は悪化し、体力さらには免疫力の低下につながり、嚥下機能低下による誤嚥性肺炎の発症にも影響します。

健全な口腔機能とそれによって良好な口腔衛生状態を保つことの重要性から、口腔機能訓練を含めた口腔ケアが介護予防のひとつとして実施されています。


口腔ケアの種類

口腔ケアの種類

口腔ケアは口腔清掃を主体とする器質的口腔ケアと口腔機能回復を目的とする機能的口腔ケアに分かれます。器質的口腔ケアはうがい、歯磨き、義歯の清掃、粘膜・舌の清掃などがあり、機能的口腔ケアはリラクゼーション、口腔周囲筋の運動訓練、咳嗽訓練、嚥下促進訓練などがあります。

どちらも必要ですが、患者様の状況によってどちらを優先すべきかを見極める必要があります。

口腔ケアにおける歯科医師の役割

口腔ケアにおける歯科医師の役割

口腔ケアは歯科医師・歯科衛生士をはじめ、全身疾患の主治医である医師や入院時のケアにあたる看護師、リハビリを行う作業療法士および言語聴覚士、介護福祉士や本人および家族の協力が必要です。口腔ケアのポイントは多職種間の連携であると言われますが、連携は時間や手間といったコストの面で現実にはとても難しいものです。まず、患者様をほかの医療従事者に治療やケアを依頼する際には、患者様の情報提供および把握からはじまります。文書の作成、異なる医療機関間であれば書面のやりとりが必要となり、事務作業はいっきに増えます。

また、ひとりの患者様に対してあらゆる人がかかわろうとすると、日程や時間帯を互いに融通しなければならない事情に直面します。現実的には、決められた期日があったり、日程のバッティングなどで各事業を思うように押し進められない、といった状況はよくあります。

連携は個々の事業をつなぎ合わせていく、というよりは、もっとも現場に近い人がリーダーとなって方向性を決定し、その方向性が無理のないようにマネージャーが協力者に調整を図りながら働きかけていくことが大切です。

医療現場において、すべての職種でその患者様のあらゆる事情を網羅的に把握するのは、時間の労力を考慮すると現実的ではありません。そこで口腔ケアにおいては歯科医師がマネージャーの役割を担い、口腔ケアをすすめていくことが重要です。

口腔ケアのリーダーは歯科衛生士、作業療法士、看護師や介護士であり、歯科医師はマネージャーとして、彼らが働きやすいようにサポートしていくというスタンスを持つのが望ましいと考えられます。

主役は、実際ケアを実施する人であり、歯科医師はサポート役である、という考え方は歯科治療と口腔ケアでもっとも異なる点といえるでしょう。以前視察した施設では一日にこなす患者様の人数は多いながら、非常に効率よく円滑に口腔ケアを実施しており、歯科衛生士の主体的な姿がとても印象的でした。実際にケアを行う職種の方は主体的な口腔ケアの方向性を決めるリーダーであり、また歯科医師はマネージャーであると互いの意識改革が重要であると感じます。

しかしながら、職種間の連携とはいえ最終的には人対人のやりとりです。人に何かをお願いするときには、相手の立場を思いやり、謙虚な姿勢が何より大切です。歯科医師として、以前に、人として協力できる人間なのかどうか、自分を見つめ直してみることも必要かもしれません。

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